投稿日: Oct 06, 2012 7:48:2 AM
Webで十分?
新しい電子書籍端末が話題になるときには、どうしてもリーダー/ビュワーの出来栄えの比較のようになるが、あまり注文を多くするとまだ何年か解決にかかるようなことにもなりかねない。これは日本文の特質が関係していることなので、紙の書籍の場合と同じ問題をかかえているからだ。今まで使われてきたシフトJISや、今使われているユニコードは、最初情報交換用として出てきたものなので、基本的には意味が通じることができればよい。例えば括弧というのは引用を意味するもので、括弧の見た目の大きさは文字コードの問題ではなく、フォントの選択に委ねられるのだが、このフォントの並び方が気に入るか入らないのかは、組版エンジンの仕事ぶりに拠っている。つまり文字コードと組版とフォントはセットで考えないとこだわりの紙面というのはできない。
かつてDTP以前の電算写植は特定メーカーがすべてを開発したクローズドなシステムであったので、使える文字セット(およびコード)、組版エンジン、フォントは相互に関連するように考えられていた。その範囲ではバランスの崩れた組版はできないようになっていた。例えば縦組みの中で英数字を縦に並べるには、仮名など日本文字のセンタあわせという重心のとり方を配慮した英数フォントを用意していて、これは新聞などをみてもわかる。しかしDTPが始まった時に新聞を作ろうとした人たちは、扁平なフォントとかそこで使う英数字の扱いに非常に苦労をさせられ、欧米ではDTPのアプリケーションとして真っ先に実用化した新聞が、結局日本ではもっとも後回しになってしまった。
欧米でもDTPのような文字セット・組版・フォントが別々に用意されているオープンシステムでは同様の問題を抱えているのだが、文字種が少なくカーニングテーブルなどいろいろなテーブルを用意しても負担にはならない、フォントは文書に丸ごとエンベッドしても迷惑にはならない、組版の規則も単純である、などで頑張ればWebでもeBookでも紙に近い表現ができるようになっている。日本の電子書籍でも組版エンジンは縦組も含めて高度化しているのだが、実装依存の仕様がかなり多くて、異なるリーダー/ビュワーではどのように見えるのかわからないとか、フォントのエンベッドにはまだ制限が多いので、端末にインストールされている代替フォントで表示されて、組版がきれいでないと評される場合もある。現実には問題の起こりそうな記号約物を避ける文字編集で切り抜けている部分もある。
これらのことは、欧米のWebデザインの優れたものをベースに、日本語にリデザインしてみると見栄えが悪くなるのと同じことで、日本の文字組版の高度化はDTPとかWebとか電子書籍とか、個別のテーマに持ち込んで解決しようとしても無理である。だから文字コードと組版とフォントの標準化のテーマとして紙面の品質を考えるようになる必要があるのと、それに呼応して実際に日本の環境でそれらを開発・提供しているところが共通認識をする場が必要になる。そのベースとしてJISの組版からW3Cの日本語縦書き、EPUB3の縦書きなどの継続した活動があった。しかしこの活動も20年も続いているとメンバーも変わらざるを得ないし、また従来サポートしてくれたIT企業にも移り変わりがあって、今は活動に困難が生じている。
DTP以降は文字コード・組版・フォントという3つの技術の接点が見えにくかったのが、HTML5+CSS3という時代でせっかく結びつき始めたところなので、最小の努力で紙面品質向上の最大化ができるようなタクティクスを作って、なんとか活動を続けなければ、日本での電子書籍はまたPDFに戻ってしまうかもしれない。
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