投稿日: May 22, 2012 12:54:55 AM
権利問題は避けて通れないと思う方へ
出版に著作隣接権を設定したいという動きがあるようだが、出版社が編集以外に著作物をカタチにする際のデザインや制作の人々に権利をどのように与えてきたのかといくことを考えると、実績として共益的なメカニズムはできていないわけで、出版社がステークホルダみんなを守るリーダーシップがとれるようには思えない。出版物がいくらベストセラーになろうとも共同制作者には還元がされなかったわけだから、出版社だけが隣接権を主張しても他の共同制作者は同調しないかもしれない。
だから音楽出版社が権利を主張するとかJASRACが集金や権利者への配分をしているような機構がすぐに出版にあてはまるわけではない。それは音楽の成り立ちと書籍の成り立ちが異なるからで、知財権と一口に言っても、音楽・美術・写真・文章などで事情が違いすぎるので、個々の事情に関することをひとくくりに知財権として取り上げて議論することは難しい。むしろ、よしあしは別にしてJASRACのように管理する仕組みの実績を作ることが出版界には先決問題ではないだろうか。
つまりそれぞれの作品に関して権利者を確定し登録するところから実績を作らないと、権利は主張できないはずだ。これは結構困難なことで、情報量の多い出版物になると多くの著者・カメラマン・デザイナ・制作者が絡んでいて、実際には誰にどのように依頼して原稿を集めたのかさえ明確ではない場合もあるからだ。漫画のように作者が一人で作ってしまうものであっても、本人の死後などはどこに権利が行ったのか、追跡されていないこともある。まして出版社が潰れてしまった場合に、再発売をするのにどこに折衝すればいいのかわからない。
権利を確定するには権利のエージェントというひとつの大仕事があり、一般的には出版社がその立場にあるのだろうが、過去にいろいろ曖昧にしてきたところをクリアにするだけでも骨が折れる。一方で読者の側からすると出版社が何を管理しているかはどうでもよく、あの作者のあの作品、というところに目が行くのが自然であるように、権利を明確にするなら、まず誰が何を作ったというところをベースにするべきで、出版社ごとではなくクリエータごとに登録をする仕組みが必要なはずで、その作品に関するデータの中に、出版物のメタデータやエージェントの記載があるという形にする必要があるだろう。
過去の書誌情報のデータベースはいろいろなところにあるだろうから、それらをマッシュアップしてクリエータごとに解きほぐして、そこに権利情報を付け加えていくような施策を文化庁がするのかどうかにかかっていると思う。