投稿日: Nov 15, 2010 12:41:53 AM
本当の日本のRIAには縦組みが必要と思う方へ
Webや電子書籍の縦組みを巡っていろいろニュース(狭い世界ではあるが)が飛び交うようになるとは思わなかったが、そのきっかけになったのが平成22年度 新ICT利活用サービス創出支援事業で「電子書籍交換フォーマット標準化プロジェクト」に予算がつく(だろう)件での発言で、プロジェクトの推進側がオープンではないので一体どのような話し合いがされているのか分からないから、内容の批評はできないのだが、外部状況から判断できることはいろいろある。例えばドットブック、XMDFが縦組みで先行しているからそれを電子書籍の中心にするような動きが報じられているが、JIS的には縦組みを含むJISX4051「日本語文書の組版方法」があって、それに準拠したものが多く使われているのだから、それを電子書籍でも踏襲するのが出版文化云々を言うのならば自然ではないのか?
それなのに突然いったい何処を目指しているのか分からない電子書籍の「統一フォーマット」を国の金でしかも緊急に作る必要があるのか。EPUBはもうアメリカの出版業者の都合の域を脱してアジアの縦組みに関してもオープンなミーティングをするようになっている。EPUBの今後の進み方としては、WebのCSS3、HTML5など同時進行の規格開発とリエゾンがとられシンクロしている。だから文字組版に関しては、紙への出力から、Web、電子書籍、あるいは動画中の文字テロップであっても一貫した文字組みができるように連携することができる。将来は縦組みの言語切り替えにも対応するものとなるだろう。日本のコンテンツをアジアの縦組圏で販売するにも好都合で、逆もありだ。要するにEPUBの先には新たなアプリケーション開発や新たなビジネス領域が考えられる。それをなるべく無駄なくするためにオープンな標準化が重要なのであるし、それは急にはできない。要するに急に「統一フォーマット」はありえないのである。
EPUB縦書きのベースであるCSS3縦書きに尽力しているのは、JISX4051「日本語文書の組版方法」の考え方の流れにあるW3Cの活動で、予算とかなく人数が少ないとはいっても、JISX4051成立以来の日本の組版技術の応用に関与してきた非常に層の厚いバックの人脈がある。これはまだ日本にアメリカのDTPが入ってくる前の時代で日本語ワープロ専用機が普及し一部は日本語DTP専用機が登場していた時、同じテキストを流しても組版された見栄えはまちまちで混乱していた時に生まれた。日本語DTPにはキヤノンのEZPSのように内部の組版エンジンがTeXに準じるものがあったり、また当時ASCIIが日本語TeXの開発をしていて、日本語TeXによって思ったより綺麗に組めるので、チャンとした組版規則を仕様にすれば、組版問題はかなり切り開けるだろうという認識がされた。そこで印刷物設計時の、行や段落、ページ内での配置、禁則処理やルビ処理などを縦書きと横書きそれぞれの場合にどうすべきかを規定し、後にレイアウト部分にまで規定を拡大した。
これは日本だけでなくアメリカで開発されるDTPにも影響を与え、オフィスの文書で使われる日本語Wordであってもかつての和文タイプライタとは雲泥の差の組版ができるようになった。またXMLのデータを自動で整形してPDFやHTMLに変換するのにも使われていて、要するに今我々が目にしている普通の組版を実現している。処理するシステムは全く別々のところが開発していて、それぞれがサブセットといえるが、組版の統一感は失われていない。ただWebでの縦組はまだできていなかったので、CSS3とともに実現できるようにと努力していたのが前述の活動である。
もし今急いで電子書籍の「統一フォーマット」を作ったところで、それは特定の電子書籍の中でのもので、それ以外の日本語の文字組版の世界とは何のつながりもないものになってしまう。そんなことをしなければならない理由はどこにあるのだろうか、というのが大きな疑問である。一方で行政刷新会議が行う事業仕分けに掛けられてしまうという話もあり、いっそその方がプロジェクトをリセットするにはよいように思う。