投稿日: May 30, 2012 12:19:40 AM
大胆に踏み出す必要があると思う方へ
少し前のことだが、アイフリークの音声を録音できるiPhone/iPad/Android紙芝居風絵本「こえほん」 http://www.pict-box.com/app が、「モバイルプロジェクト・アワード2012」の「モバイルコンテンツ部門」で優秀賞を受賞した。これは絵本のグラフィック部分と読み上げは先にできていて、それをダウンロードしてから利用者側で読み聞かせを録音したり、家族みんなで声を録音して楽しむもので、いわば2次創作とかユーザ参加型コンテンツである。このアプリは40万ダウンロードされたそうで、教育カテゴリではトップクラスの売り上げを達成した。これからこういったアプリケーションは山ほど出てくることが予測できる。
それは絵本がeBookとして取り組みやすいというだけではなく、絵本がシンプルなだけにいろんな利用法があるからである。つまり従来の紙の本の場合には利用者に任されていた利用法がアプリ化するということである。「こえほん」の場合はよく知られたストーリーを介して家族コミュニケーションできることがウケている理由だろう。家庭に不在がちなお父さんの声がいつも聞けるし、おじいちゃんやおばあちゃんなど家族そろった時に録音すると、家族としても記念になるコンテンツになる。幼児は親の声を識別するので、プロのナレーターよりも家族の声の方に反応するからであろう。
また絵本で何かを伝えたいという場合もある。民話であったり、啓蒙用であったり、それぞれ絵本の背景に多くの情報があるので、親用には電子書籍であり、子供用にには紙芝居という兼用型アプリもあるだろう。民話なら方言のナレーションがあって、地方の言葉や風習の情報などが付随する場合もあるだろう。当然外国語への差し替えもすでに行われている。こういったアプリは単に編集上の作業を増やせばできるのではなく、出版企画そのものが従来の紙のそれからはみ出ていて、人のコミュニケーションとか、コンテンツをベースにしたサービスという視点が入っていないとできないものである。
「こえほん」の場合は台本を読者に開放しているので、マルチメディアとしてはネタバレのようなことをしなければならないが、これに踏み切るには、「自分たちが最良のものを提供する」という想いから抜け出すことが必要で、参加型アプリというのは出版にとってはパラダイムシフトといえるかもしれない。
eBookというのはIT利用が社会に浸透したことへの対応をした出版のモデルであることを、記事『コンテンツの競争力:量から質へ』で述べたが、コンテンツをベースにしたビジネスを考えるには、紙のアナロジーを超えなければならない。それは既存の出版界の人よりも周辺の人の方が発想しやすいようだ。「こえほん」の場合は既存の絵本から権利処理するよりは新たに絵を描きおこしていて、既存の出版を迂回するような進め方だったのかもしれないが、出版界側からもコンテンツ提供のアプローチがされるようなるべきだろう。