投稿日: Aug 29, 2014 1:27:19 AM
アメリカ黒人音楽のベースをなしているもののひとつがBluesであるのだが、黒人当事者にとってのBluesと、音楽メディアを通してBluesに接した非黒人にとってのBluesの間のギャップは、非黒人にBluesが伝わって半世紀を経っても埋まらないものがある。記事『JazzとR&Bの決別』ではその初期のリアクションとして、英国のJazz評論家の話を採りあげたが、フォークファンも、ロックファンもそれぞれ勝手なBlues観を作り上げていったのである。それは仕方ないともいえる。
また国によってもBluesの理解は相当異なる。日本におけるBlues観は割と狭く、日本人が演じる場合にもパターン化されやすいが、Bluesという音楽の許容幅は非黒人でももっと広いのである。それが日本でブルースのレコード・CDが売り難い要因にもなっている。
そこで、今日とりわけ日本人の勘違いに多いと思われる先入観を5つ挙げてみる。
1.ギターが必須である
実際は黒人市場向けのBlues録音ではギターがフィーチャーされている曲の方が少ない。R&B系Bluesではサックスがソロをとる場合の方が多い。エレキギターのメロディーが入っているのは1940年代中ごろから1950年代初期のCityBluesが多く、このブームが去りつつある頃にB.B.Kingが頭角を現すことになる。彼のスタイルはR&Bのバンドを背景にサックスの代わりに自分でソロを弾くというものだが、そのような器用なことができる黒人歌手はそう多くはなかったが、1960年代中庸まではB.B.Kingスタイルの録音は一時的に増えたことはあった。
参考 : ギターを持った黒人(1) ギターを持った黒人(2) ギターを持った黒人(3)
2.カントリーブルースが源流である
第2次大戦前で78回転SPレコードの時代に、非常に多くの生ギター弾き語りのカントリーブルースが録音され、今でもCDで売られ続けていて、それらがBluesの源流であるように見える。しかしそれはレコードという商品の特性との関連で目立っているもので、例えば放送禁止的なものとか、当時のレコードに収まりきれない時間のものとか、当時のレコーディング技術が追い付かない楽器などは録音されていないものなのである。
特に放送禁止に近いものは、内容がきわどい表現であるとは限らず、レコード会社の白人からするとバカバカしい音楽として排除されたものが多い。戦前にメジャーレコード会社では録音されなかったこれらのBlues系音楽は、戦後に黒人向けインディーズがいっぱい登場することによって、よりライブに近い音楽もレコードとして出るようになるのだが、それは45回転の世界にとどまり、LPとかCDにはなかなか反映されなかったので、非白人にはあまり知られていない。
参考 : 音楽産業は音楽を代表していない
3.南部に行くほど黒人ぽい
非黒人の間ではシカゴブルースという数人のコンボ形式の音楽が最も人気のあるBluesである。これはハーモニカがはいっていたりして、R&B色よりはデルタブルースに近い。曲目も戦前のデルタのカントリーブルースから多く借用している。そこでミシシッピーの河口に近づくほど純粋な黒人音楽であるように思いがちになる。
しかし南部でエルビスプレスリーが登場したように、黒人向けラジオが多く聞けるために、白人の中にも黒人と一緒に音楽をしようとした人が居る。ジョニーウィンターは駆け出しの頃に地元レーベルで黒人のバックでスタジオミュージシャンをしていたが、ルイジアナや隣接のテキサスではエクセロサウンドなど白人黒人混成の録音が非常に多いのである。
参考 : 白い黒人
4.ブルースはオッサンの呻き
いわゆるシカゴブルースでは女性歌手が非常に少ないように見える。実際のライブでは若干は居て、女性シカゴブルースの45回転盤も出ている。しかしブルースの巨頭というとマディ・ジョンリーフッカー・ハウリウルフ・ライトニンホプキンスなどとなって、ギターをもったオッサンが唸っているイメージが強く出来上がっている。唸るというのは確かにブルースの特徴ではあるが、若い女性も唸る。ビッグメイベルは初期からすごく唸っている。また女性が図太いシャウトをするのもブルースの特徴である。ところが日本ではこの種の音楽があまり発売されていない。
歌手というエンタメの職業では女性の方が多いのではないかと思うのだが、女性のJazzもR&B系もみんな(1950年代にスタートした人は特に)ブルースを自分のレパートリーにもっていて、45回転盤の場合は時々Blues録音をしているのだが、これがLPになる時には削除されている。Bluesを歌っていることは歌手のイメージダウンとか格下げになるという配慮だろう。しかし45回転を含めてBluesを録音した人という数え方をすると、男女たいして変わらないのではないかと思う。
5.黒人は今日ではブルースを歌っていない
過去に何度かブルースのブームというのが世界的にあった。それは冒頭の非黒人の勝手なBlues観と関係している。それぞれのブルースブームの終焉には、黒人大衆音楽そのものにはついていけない非黒人の限界がある。BluesはJazzの一部であったり、R&Bのレパートリーであったりした。これらの場合は音楽形式としてのBluesは以前のママ引き継がれていた。しかしソウルとかファンクの時代になると、Bluesの音楽形式が壊された上でBluesぽい歌い方がされるものが出てくる。これらは非白人にはなかなか真似のできないもので、カバーされることも殆どない。
非白人はカバー曲を通じて黒人音楽を理解するという構造があったために、黒人世界に留まるSoulBluesのようなものは殆ど聴く機会を持たなかったのである。
要するにカバーを通じて知るBluesというのは、Blues音楽形式を踏襲したブルースのことであって、それを基準にすると今は黒人はBluesを歌っていないようにみえてしまう。黒人が古いBluesのカバーをする際には、全く現代的に作り変えてしまうために音楽形式としての原型を留めないようになってしまていることが多いからだ。しかし歌詞をよく聞いていると、本人はBluesを歌っていることがわかるものがあるのだ。
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