投稿日: Feb 10, 2016 12:40:39 AM
昔からのアナログメディアであろうとデジタルメディアであろうと、良いコンテンツを提供するには手間と時間のかかるオーサリング作業を経なければならないことを、記事『UGCはダメだったのか?』で書いた。技術革新はそのオーサリングを何らかの方法で効率化するものであるのだが、いつまで経ってもオーサリングの決定版というのは出てこない。これは紙メディアの時代の電算写植→DTPであれ、製版→Photoshopであれ、経験のない素人が扱えるようにはならなかったこととつながっている。
DTPの初期にマイクロソフトもDTPもどきを考え、Publisherというソフトを出したり、電子書籍の際にもWordで編集したコンテンツを仕上げるものを試作したことがあるが、アプリケーションで解決できるところよりも人のスキルに依存するところの方が重要と考えて、これはマイクロソフトのすべきことではないとビルゲイツはいっていて、偉いなと思ったことがある。彼は無駄な競争とか他社と意地の張り合いはしない主義なのであった。
とはいえ技術革新で作業環境は変わっていく。HTML5が近付いてきた。それで新たなオーサリングシステムがいろいろと出てこようとしているが、開発の指向にはやはり以前のような異なる2つのベクトルをどう矛盾なくまとめるのかという課題がある。
2つのベクトルとは、効率化とクリエイティビティである。言い換えると「構造化」と「自由な表現」でもある。コンピュータの歴史的な流れからすると、オブジェクトオリエンテッドな方向に発展しているので、コンテンツ制作においても、素材・エレメント・手順などは小さい単位で構造化して、出力時に一気に自動で組み立て上げるレイトバインドの指向がある。CSS組版もEPUBもそのような流れにある。
しかしCSS組版のような考えは、ある意味では電算写植への先祖がえりともいえ、PaloAlto研究所で始まったWYSIWYGのような画面を見ながら調整していく自由レイアウトとは相性が悪い。CPUの能力が上がるほど、細かなデータの集まりをWYSIWYGで操作することはやりやすくはなるのだが、ハードの進歩に依存するソフトの開発というのはビジネスの寿命を縮めてしまうのでリスクが高い。
そして文字だけのドキュメントならまだ何とかなっても、今はマルチメディア化しているので、WYSIWYGに要求される技術仕様も高まってしまう。
このように考えると、メディアスタイルがすでに枯れてしまっている分野であるアナログメディアの再現のような(印刷物類似)場合は構造化文書のアプローチが有効で、マルチメディアに比重を置いている方はクリエイティブ性を高めていくような方向での開発がされるようになるだろう。
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