投稿日: Oct 27, 2014 12:51:33 AM
前世紀末からゼロ年代にかけて、印刷の制作工程(写植・製版など)がDTP化したことで、日本の印刷と関連産業の売り上げが年間4兆円くらい減ったという試算をしたことがある。つまり高額な設備投資が不要になったことと制作の人件費も抑えられるようになったからである。この変化は10年くらいかけて起こったのだが、必ずしもマイナスではなく、これによってカラー印刷物が増えるという面もあって、例えばザラ紙のようなものにモノクロ印刷していたフリーペーパーや情報誌が軽量コート紙にカラー印刷されるようになったので、印刷産業の売り上げが急に下がることはなかった。
しかしゼロ年代後半のリーマンショック以来は広告宣伝物に異変が起こって、ネットにシフトするようになったので、フリーペーパーや情報誌が減り、4兆円減がシビアに感じられるようになった。つまり長期的にみると、デジタル化とネット化で印刷物は以前の半減することは証明されてきた。
印刷物全体で半減でも、雑誌などはピークの10分の1になろうとしている。まだ堅調な分野が一部にあるとしても、やっていけないとしてやめた媒体が多くあるので、全体では10分の1くらいにはなるだろう。その代替としてネットで電子雑誌が出てくるかと思われたが、ネットでの広告のつき方は紙の媒体のようなスタイルを踏襲せずに、モバイル広告に向けて走っているので、広告ビジネスはネットシフトできてもメディアビジネスはネットにシフトできないでいる。
20世紀前半は印刷の世紀ともいえ、印刷メディアが社会のあらゆる領域で使われるようになった。20世紀後半は放送・とりわけテレビの時代であったことは言うまでもない。これらで築かれたマスメディアは、やはりマスプロダクツとは相性がよく、無くなることはないだろうが、今はマスというのには小さすぎるメディアが苦境に立たされている。それは電子雑誌の失敗のように、従来のメディアのアナロジーでは成り立たないからだ。
そういったことは印刷物の多くの局面で起こっていることで、古くは百科事典が滅んだように、デジタルで新たな展開ができるのではなく、消失するというものがこれからも増えていくだろう。しかし百科事典の著者である各分野の専門家にとっては、百科事典で喰っているのではないので、ネットで仕事が消失するのではなく、Wikipediaなり何なりで貢献することは続くだろう。
KDPのような自主出版も同様で、これが出版社のビジネスを代替するとか脅かすことはないだろうが、ひとつのジャンルとしては確立していくだろう。ソフトウェアではフリーウェアとかオープンソフトのように商業活動ではないプログラム配布が行われていて、それも社会の中で機能しているように、個人だけでなく企業や団体も自主出版活動をするようになり、それまで出版社を経由していた書籍の一部は市場から消失するようになるだろう。
昔は商品(とりわけIT系)を買う前にマニュアルを詳細に調べたいというニーズもあって、マニュアルをベースとしたパソコン関連本というのが結構の数が発刊されていた。しかし今はマニュアルそのものがPDFで閲覧できるようになってきて、書籍として出しにくくなってきたのも市場の消失の一面である。既存のメディアビジネスからユーザーサポートサービスに転換できたところというのはあまりないのではないだろうか。そのようにして既存メディアビジネスは縮小していくはずだ。
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