投稿日: Jul 27, 2010 11:15:53 PM
新ビジネスモデルは絵に描いた餅と思う方へ
印刷業界は印刷機を回すより手前の工程であるデータ処理や紙面作成のデジタル化が先行したにも関わらず、デジタルコンテンツを扱うビジネスにあまり踏み込めなかったのは、売上げと利益のねじれ構造があるからだ。つまりデジタルのビジネスから生じる利益に比べて、従来の紙の印刷の方は利益が限界にあるにも関わらず、見えないところに儲かるところも残されていたからで、「苦しい」印刷を捨ててしまうとそれがなくなるのが惜しい、ということでねじれが生じる。先日宅配便の方と話したところ、やはりECの大口顧客との交渉では配送料を下げざるを得ず、しかし代引き手数料として買い手からいただくところで収益を上げる構造があるようだ。こういったねじれはそれぞれの業界にあるので、この場合は売り手も宅配業者も持ちつ持たれつの関係を維持するために安価な決済手段を普及させにくい環境を作り出している。
印刷は工程が長く複雑で原価の把握は当事者でも難物であった。この原価の不透明性ゆえに、顧客に対して「フィルムを30枚くらい使うだろうから製版代はこれくらい」と見積もり時点で説明すると、顧客は「そうか」としかいいようがない状態だったのがデジタルでフィルムレスになると原価が次第に丸見えになっていった。しかし面付けだとか色校正など周辺の工程は、デジタルで全く質の異なる作業になったにも関わらず、アナログ時代の見積もりを踏襲して利益を生んでいたところもある。印刷会社に従来道理のサービスを要求するとこういったアナログ的な見積もりがついてまわるが、デジタルを契機に根本的に受発注の役割を見直すと、アナログ見積もりを排除したコストを理解することができる。しかし一般の印刷発注者はそこまで踏み込むことは稀である。
つまり過去のブラックボックスはある程度残るので、それに甘えて今後も経営計画を建てるのか、それとも「いずれ変化は必須」と考えて対応する戦略課題を作るのか、という分かれ道が待っている。利益をそのままにしたい気持ちはわかるが、これからは今までと異なるポジションに身を置かねばならないと判断したならば、新しいビジョン、ロードマップ、組織、戦術に向けて動き出さないと、デジタルコンテンツの動きはすべて向かい風となって、それこそ過去にデジタルに投資したことは無に帰すことになる。残念ながら衰退産業というのは外から侵略されるから衰退するのではなく、自分で墓穴を掘るものなのである。
コンテンツデジタル化の流れは1990年代から見え始め、2000年くらいから各職場や学校でも起こり、コストダウンも進んでいたのだが、これによって印刷需要も高まりを見せていたので、デジタル化と印刷は両立するように思えた。しかしマスメディアや紙媒体の拡大が止まったとたんに、アナログ的ワークフローを排除したデジタルなパフォーマンスや利益構造を身につけた印刷会社と、アナログのごまかしに利益が依存していた印刷会社の差は如実になり、後者のサバイバルは瀬戸際に立たされている。
新しいビジネスモデルに向かう場合に、内輪の事情としての利益のねじれ構造は解消しておかなくては、結局ビジネスモデルは絵に描いた餅になってしまうのだろう。