投稿日: Sep 15, 2014 1:37:32 AM
私がアナログのレコードをいっぱい持っていると、アナログレコード至上主義者と思われてしまうことがある。世の中にはアナログの方が音がいいと考える人が少なからずいる。実際にDJイベントなどをやってみると、アナログレコードを大音響でかけると家で聞くよりもずっとインパクトがあるのだが、それは家の部屋のつくりとかボリュームの大きさの違いに起因するところが大きいと思う。なぜかそういうところで聴くとアナログレコードのノイズがそれほど聞こえない。一方特にヘッドフォーンで聴く場合はノイズが目立ってしまう。
こういったことはメディアの良しあしというよりも、メディアと再生装置、コンテンツの加工などのマッチングの問題であることが多い。
こういう現象の一つの理由はCDのオーサリングに原因があると思う。CDの初期のデジタルの音というのは、録音テープをそのままCDにしたような誤った「原音」主義があった。それでは迫力不足に感じるので、その後はCDでもマスタリングでメリハリをつけるようになった。これは何でも複製を繰り返すと特性カーブが立つとかコントラストがつくことを模している。例えばレコードの場合は最初にカッティングしてプレスの型になるまでに凸凹型の複製が2回あって、ピックアップの針がトレースするのも複製の一種であるとすると、「原音」に何度か複製によるコントラストがついた特性のものがレコードの音であったことがわかる。
アナログレコードはこの複製の間にノイズも混じりこんでくるのだが、ノイズはランダムな信号であるので、ある程度打ち消し合いもしていて、あまりノイズレベルは高くならないし、そもそも複製をする際のコントラスのついた特性カーブでは非常に小さい音は拾いにくいので、複製を繰り返してもノイズは高まらない。しかしヘッドフォーンというレンジのせまいデバイスでピアニッシモもちゃんと聞こえるようにしようとすると、低いレベルのノイズは大きくなってしまうので、アナログ音源はヘッドフォーンに向かないのではないかと思う。
またモノラル時代のアナログの音は、AM放送とかAMラジオ、ジュークボックスなどが対象で、HiFiステレオでの再生を前提としていなので、狭いダイナミックレンジでの再生のために、そもそもかなりコントラストがつくようにマスタリングされている。真空管のアンプの時代はボリュームを相当上げても信号がクリップしない特性だったことも、コントラストがつくマスタリングが好まれた理由であろう。
一方HiFiステレオ時代はコントラストをつけるよりもダイナミックレンジの広さをたのしむようなアンプやスピーカーになっていったので、そのステレオ装置そのままでは「原音」CDが、AMラジオやジュークボックスでの再生のようなメリハリがでないのである。
結論として、モノラル時代にHiFiとは言いにくい装置で楽しんだ音楽は、アナログ音源から再生するとよく聞こえる場合があるのだが、そういったアナログ音源の良い印象というのはデジタル化されたあとでのシミュレーションでも作り出せる時代になっている。今ではアナログ向けアンプが入手しにくいので、アナログ音源をアナログ風に聴けるようにリマスタリングしたCDさえ手に入れば、1960年前後のHiFi以前の音楽もそれらしく今のHiFi装置で楽しめるといってよい。だからCD化されていないもの以外はアナログで聴く必要はないと思う。
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