投稿日: Apr 26, 2013 1:23:32 AM
どのようなビジネスになるのかと思う方へ
AmazonのKindleのように誰にでも開かれたeBook流通ができあがったことが、出版のビジネスにどんな影響を与えるだろうか? 一般的に言われていることは、新人作家がeBook自主出版でデビューして出版社の目に留まり、めでたく紙の本も出版されるというサクセスストーリーである。もう一つは出版社はやりたがらないが一定部数のニーズがある専門分野のロングテール出版が可能になることであろう。これらは単にeBookが売れるかどうかの問題ではなく、出版のステークホルダのつながりが代わるものでバリューチェーンの組み換えという点では、出版に新しい業態をもたらすことでもある。
一方で紙の出版物を今更eBookにしても、おそらくヒットはないだろうといわれる。このような期待のない見方は同時に、過去のバリューチェーンの中でeBook売上をシェアしたところで売価が下がっているのだから、より少ない分け前しかあずかれないと思うからだろう。
eBookのように「財」ではなくて利用料金的なものは単価が低く、しかもロングテールとあっては、粗利1冊100円x500部で5万円とかなってしまうと出版社にとってはビジネスのうまみを感じない。しかし著者が自主出版をするならば印税7割という手があるから、出版社よりも遥かに多くの取り分がある。
専門分野など市場が固定化していて何百部でもかなりの確度で売れるのなら、著者は紙の本をeBookで再販したいと思うだろう。この場合はおそらく制作代は著者もちになるのだろうが、出版社が「隣接権」を盾にもめることがあるかもしれない。こうなると日本のeBook100万点は時間の問題になる。
冒頭の野心をもった著者の出版の場合は、紙の出版で成功せず実質上の絶版になったとすると、著者は別の出版社で再挑戦したく思っても、現状ではなかなかそういう契約切り替えはできないし、別の出版社にとってもバツイチでリスクがはっきりしているわけだから簡単には受けることはできない。しかしeBookの自主出版の場合は、少なくとも印刷に伴うリスクはない。ただAmazonなど流通との印税契約が変わってしまうことはあるだろう。ともかく出版社の「隣接権」さえなければリトライはできるようになる。
エンタテイメント性のある出版物の「売れる・売れない」は時の運のようなものがあるので、ヒットの予備軍がどこかにプールされている意味はあるのだが、現状では出版された本は1年で手に入らなくなるので、プールは小さい。個別の出版社は「隣接権」にこだわるのだろうが、ヒットの地盤としてはプールを豊かにした方がいいはずだ。
つまりエンタメの自主出版でシンデレラを狙うのは妄想で、実際の自主出版はプールに過ぎない。これはWebサイトと同じことである。Webで着目される個人サイトでもどんぐりの背比べ的になっているように、自主出版も同様になるから、そこにセンスのある編集をすれば商品価値は高くなるので、プロの出番は残る。しかしそこでも単価を上げることは難しいだろう。