投稿日: Oct 26, 2010 11:14:42 PM
電子書籍が何を解決するのかと思う方へ
朝のTVで神田古本市のニュースを流していたが、その大半は電子書籍、しかも自炊の話だった。面白かったのが本の背の断裁屋の話で、引越しをする際にまとめて蔵書を断裁屋に送ってくる人がいるという。それは本の置き場所の問題があるからで、しかも増えていると。私も結婚の際に泣く泣く本棚を半分に減らされたことがあるので、本の体積をゼロにできることは大変魅力的に思う。もし私が電子書籍をどんどん使うようになるならば、手放した本をもう一度見たいという動機があると思う。また人の話から得られた情報で読んでみたいなと思ったものの、本屋では出会っていない本も、電子書籍なら探し求めるだろう。このような、本を買うわけにはいかないとか、見つからなかった、というものは従来の書籍流通では解決できない。それに対して検索によって見つけられるAmazonで一部は解決したわけだが、Amazonは体積をゼロのKindleも実現してくれた。
記事「読者から見た出版とは」では、eBook・電子書籍に際しては読者がどのような行動をしているのかマーケットのニーズをもう一度確認しなければならないと書いたが、買う側からのビジネスモデルが電子書籍の勝敗を決めるだろう。それに対してギョーカイの都合や権利問題の綱引きで作った電子書籍のビジネスモデルは、もたもたしている間に「自炊」が先行する。自炊はユーザーの私的複製なので、一度は購入してもらったということで権利問題はないが、利用者のライフスタイルの変化をもたらす機会となる。しかしわざわざ本の背を断裁してスキャナを買ってなどする人がどれだけいるか? 疑問に思うかもしれないが、すでに業務用途では進行しているので、仕事を通じて電子書籍のライフスタイルを身に着けることが多くなるだろう。
冒頭のTV番組では、お医者さんたちが毎月来る専門誌を自炊して、それを皆がiPadで閲覧できるようにして、それを資料に会議をしている光景があった。つまりオフィス単位で定期購読している専門誌を内部で回覧するようなことや、その特定のページをコピーして会議で配るという局面が自炊によってカバーされる。雑誌の回覧は途中のどこかで滞留して管理が大変になるが、電子書籍では管理が不要になる。
また製造業には多い立ち仕事や、移動しながらの仕事の場合は、ドキュメントを臨機応変に使うことができなかったが、iPadやタブレットなら「現場」で使えるものとなる。ある大手電気会社では過去の紙のマニュアルを自炊し始めたし、今後は紙と電子書籍・eBookの関係が逆転して、「現場」のeBookが先に出来て、後で紙のマニュアルも作られるようになるであろう。製造業が多い台湾では行政が音頭をとってそういう方向に行こうとしている話しがある。
JAGATに居たときも年に1人くらいは、本を出したいという人が現れて、PDFでレイアウト済みのものを見せてくれたが、そういった自主制作も最初から電子書籍になるだろう。本の版元になると、やはり売れそうな数と印刷製本代の兼ね合いで、自主制作のお手伝いができないというか、リスクを考えて断る場合が多いが、電子書籍はある意味では無責任にどんどん出版できるものとなる。200-300部の超ローカルな出版の可能性は周囲にゴロゴロあると思うが、それを引き受けてビジネスにするスキームが無いのである。ここを無理やりビジネス化するのは、すぐには無理だろう。
電子書籍は今ある技術で可能なものであり、それ自身に革新的なものはない。将来はソーシャルリーディング的な発展があるであろうが、今はむしろ紙より便利な電子書籍利用のライフスタイルの局面をいろいろ見つける時期であろうし、それは確実にある。しかも書籍流通としてビジネスをするよりも、インハウス利用が先行しそうである。今はそういった仕事は誰が請け負うと言う決まりが無い。自社内でやったり、派遣さんだったり、IT会社だったり…。そのためルールとかベストプラクティスのようなものもない。しかしそういった経験を通じて、こなれた電子書籍・eBookのスタイルが出てくるのかもしれない。