投稿日: Jul 27, 2013 2:9:59 AM
音楽はレコードのことではない
私が子供の頃に45回転盤レコードを買い始めた初期のもので、最初のレコードではなかったとは思うが、非常に大事に扱っていたのが Ray Charles の What'd I Say である。このレコード自体は1959年8月24日のBillboardで全米7位に入ったヒットである。日本版の解説にはレイチャールスは27歳とあるが、それは録音された1958年のはずである。FENには良くかかったので「欲しい」とずっと思っていた。
私が買ったのはそのちょっと後で、中学校に入った頃だから1961年だったと思う。330円だった。What'd I Sayが「なんと言ったら」という邦題になっているが、誰もこの曲をそうは呼ばずに「ホワッドアイセイ」といっていた。「なんと言ったら」は誤訳ではないが、歌詞では、言いようがないキモチ良さ、のことである。そこんところを男女の掛け合いで呼応しながら歌うので、あまり教育上はよろしくない内容だが、英語なので誰も文句はつけなかった。
ところがアメリカは逆である。実はアトランティックレコードはこの曲を録音しようとはしなかったのである。曲の起こりはライブの際の最後の客と一緒になって盛大に盛り上る大団円のようなもので、以前からレイチャールスはやっていたのだが、レコード会社にするとイメージダウンにつながる内容であり、きっとクレームもくるだろうなと判断したのだろう。
当時のRay Charles のレコードになった曲調の半分はラウンジ音楽であって、品がよかったのである。
しかしファンはWhat'd I Sayで盛り上がりたがったので、あるラジオ局がライブ音源を流すようになって大反響を得てしまった。それで仕方なくアトランティックレコードも吹き込ませざるを得なくなった。この出来事は黒人音楽がどのようにレコード化されて、また白人社会にも広まって行ったかを象徴している。
つまりレコーディングの歴史と音楽の歴史は別なのに、レコードが音楽シーンを現しているという混同が今もってある。古く録音されたものが古い音楽形式で、新しく録音されたものが最近起こった音楽という決め付けはできないのである。
むしろ黒人音楽においては白人社会に許可された順にレコード化したのであって、元々黒人たちが何をしていたのかは、レコード順を外して捉えなおさなければならない。記事『ギターを持った黒人(2)』では、白人が嫌っていた曲調が戦後に黒人やマイノリティのレコード会社によって世に送り出されたことが、ロックのきっかけとなったことを書いた。
TV・ラジオや新聞・雑誌・書籍などのメディアについては、「メディアリテラシー」といって、メディアを通じた情報を鵜呑みにするのではなく、メディアの仕掛けがどのようになっているかを理解しようという指向があるが、音楽メディアにもそれは当てはまるはずだ。
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