投稿日: Aug 10, 2012 1:6:0 AM
政党に期待できない方へ
ボブ・ディランの「風に吹かれて」の原題が「Blowin' in the wind」だが、これを聞いた学生の頃から訳には疑問をもっていた。ベトナム戦争が時代背景にあるので、一般にプロテストソングの部類かもしれないが、はっきりした主張はなく、現状に対して疑問形の歌詞で、「the answer is blowin' in the wind」と締めくくる。つまり風の中で答は吹いているというのだ。答が吹いているとはどういうことか。ボブ・ディランはユダヤ系でもあり、その文脈で考えれば吹くものの典型は角笛で、旧約聖書で角笛を吹くというのは民に対する何か重要な知らせを意味する。民の側からすると「ほら、答が鳴っている」というもので、つまりは、答は明白だということになる。日本風の意訳なら「風に聞け」かもしれないが、どう訳しても「風に吹かれて」にはならないだろう。
この歌の場合は人々が苦しんでいる諸々の事柄は、ベトナムから撤退すればよい、というのが答で、そんな明白なことが通用しない状況を歌にしたものだといえる。だがこれはベトナムだけのことをいっているのではなく、民主主義下における諸施策であっても、また当時盛り上がっていた黒人差別撤廃など民間の制度・慣習でも、必ずしも良い方向に動いていかないことをいっていると思う。ユダヤ教なら神との契約を省みないことから、人間同士が潰しあい、消耗しあっている姿であろう。つまり旧約聖書の預言書的な歌詞である。
今の日本の、経済低迷でも、原発政策でも、異常な国債でも、少子高齢化でも、今更議論する余地がないほどわかりきっている話で、しかも失われた20年という如く、どうにかするための時間は十分にあったのに無策で今日までいる。日本はエネルギーと原材料を輸入して高い人件費でモノつくりをするのだから、低付加価値のモノを大量に輸出して外貨を得ようとうのは無理なのに、電機メーカーの国内工場建設などを進めてきた。前述の課題に対しては民の貯金をゼロにする方向にしかいっていない。しかし世界は日本よりも状況が悪いところがもっとあるために、こんな日本でも安定しているように評価されて円高になっている。日本国債の格は下がり続けているが、先進国は皆下がっているので、相対的に先進国での日本のポジションは下がっていない。
以上のような事を総合すると、どんな答が風の中に吹いているのだろうか。日本が安定しているという評価で海外からも国債が買われるならば、日本の国債依存からの脱却がその分遅れてしまって、無策がさらに続く。しかし民の貯金を蝕んでいるのと海外の金を借りるのではプレッシャが違うだろう。だから海外の金を入れると日本の政策はやりにくくなって、それを嫌ってグローバル化とは反対の鎖国的な自給自足経済に近づいていくだろう。これにはネットによる物流の簡素化が寄与する。もともと日本は贅沢さえ望まなければ鎖国が可能なくらいに自然の恵みのあるところだから、工業製品輸出で現金を得て食物を買う方が不自然である。要するに日本の行く道は日本に最初から与えられている有利な自然条件に沿うものになるだろうというだけのことである。
しかしこういった日本全体の道と企業家の選択とは別のものとなる。中国の政権・政治がどうであろうとも華僑が世界的にネットワークを作ってビジネスをしているように、日本も中国を追ってグローバルなビジネスの野望を持つ人が少数は現れてくるだろう。もう日本本土に工場を持たなくてもビジネスに不都合はないのである。つまり日本の状況と個人の自己実現は全く無関係になる。欧米では植民地時代にそのような野望で世界に出て行ったわけだが、日本のビジネスのグローバル化は100年遅れで参入することになる。そこでグローバルな成功者が出たとしても、日本の納税者になるかどうかもわからないのである。