投稿日: Nov 16, 2010 11:25:31 PM
思い出以外にどんな意味があるかと思う方へ
iTunes Storeで「The Beatles」の配信がスタートした。オンラインのビートルズ解禁のようなものである。そもそもiTune Storeの最初の段階からSteve Jobsはビートルズにアプローチしていたが、全然交渉は進まずに、見切り発車のような形でiTunes Storeは始まった。もっと前の段階で、CD-ROMでマルチメディアが出来るようになった時代に、ボイジャーがビートルズの映画"A Hard Day's Night"を出してしまった。この時はちゃんと許諾をとってのCD-ROM出版であったが、許諾が得られたのはビートルズ側がCD-ROMとは何ぞやというのが、あるいはVHSと違ってパソコンで見るということの違いが判っていなかったからだといわれたものだ。その後ビートルズはパソコンとの接点を遮断し、今回が解禁にあたるともいえる。
皮肉なことにiTunesはビートルズがなくても世界に広がったように、パソコンとネットはビートルズを過去へ押しやった効果もあったはずだ。Steve Jobsにとっては高らかな勝利宣言であるのかもしれない。ビートルズの登場の様子を覚えている人はそんなにいないのだろうが、音楽家とメディアを考える上でも非常に面白い現象であった。つまり1960年代初頭に登場したビートルズは、当時世界中で爆発的な勢いで広がりつつあったテレビというメディアの申し子のようなものであったからだ。それ以前の超アイドルはエルビスプレスリーで、彼は世界的な映画の配信とともに世界的なアイドルとなった。実はエルビスプレスリーの音楽自体は、その出身からして南部のプアホワイトというニッチなものであったのが、音楽メジャーに乗ることで世界に知られ、年2回くらいの新作映画とともに音楽のヒットも繰り返した。それまでの音楽家はラジオに頼ってレコードを売っていたのが、プレスリーになって映画でビジュアルなアピールができるようになったのが、レコードの大記録につながっている。
ビートルズの場合は、その当時の旋風の様子がテレビで世界中に伝わって、レコードの発売の前から大変な期待感が沸いた。当初のコンサートはパニック状態で音楽は全然聞こえなかった。日本では非常に少なかったがテレビの音楽番組がビートルズのビジュアル効果を演出した。制服とか髪型とかビジュアルを含めたプロデュースの勝利であって、しばらくの間その後の若者音楽の作り方の規範であった。次の時代はヒッピーとかサイケとなってプロデュースの方向は全く異なってしまったが、ビートルズは音楽番組以外に一種の社会現象としてのテレビ露出で映画よりも短い周期でヒットを繰り返すことができ、一時代を築いた。
ヒッピーとかサイケも、その後のニューミュージックも、音楽家個人の思想や生き様が音楽に結びつくので、タレント養成という音楽産業のメカニズムとは少し違って、ファンコミュニティがムーブメントを作る、今で言えば「ソーシャル」な傾向を帯びた。それは今日のMySpaceなどにもいくらか反映はしている。音楽産業のビッグヒットを狙ったタレント養成はずっと続いてはいるが、ジョンレノンはそういったメカニズムを壊す方向に進んでビートルズは活動を終えた。ビートルズは多くの楽曲を残し、そこに青春の思い出を感じる人も多いのだろうが、やはり今どき解禁されても新たな何かが起こるとも思えないのだが。