投稿日: Dec 24, 2014 1:59:28 AM
2014年の出版年鑑では2013年も日本の出版物の発行点数は増えて82589点になっていて、10年前に比べて1割増えている。これは出版が苦境で自転車操業しているから新刊を乱発すると説明されているのだが、もう一方では制作コストや印刷コストが下がってきたことにも理由があると思う。言い方を変えると安く作れる本ばかり作っているということでもある。もっといえば、そういうことしか出来ない(脳が無い)ということである。これはプロの出版社がアマチュア化しているともいえる。
アマチュアの世界には自費出版というのがある。その他企業や団体が自費で制作する図書というのもある。またコミケなどのような同人誌というのがある。これらは主には数百冊から多くても1000~2000冊しか印刷しないものであろうが、点数でみるとやはり7-8万点はありそうだ。
つまり印刷側からすると本の半分は出版社以外の顧客であり、本はありふれたものであって、本に文化的な何か特別な意味があるとか、出版界の地位を特別視しなければならない理由が見当たらないものである。極端にいえば、出版界という業界団体が無くても出版という行為は続けられるわけで、実際には出版される本の数ばかり増えて個々の本の権威が失われてしまうと出版界の存在感は限りなく薄くなっていく。
出版界の権威が失われたことは再販制度などの出版界の言い分に世の中の人の賛同が取り付け難くなっている状況からもわかる。マスコミ不信だけでなくネットメディアも含めてジャーナリズム不信という風潮もうまれてきた。何々は怪しいとか偽科学とかが紙の本でもネットでも増えている気がして、情報不信の時代になっていくのかもしれないと思う。権威が失われた出版を「知の云々」というトップダウンの図式で考えることはもう不可能なのではないか。
もちろん全うな情報も出版されていたりネットにもあるが、そういったものはそもそも見る人が少ない。つまり出版やメディアの主流にはなり難いものである。既存出版社も一部のところしかそういったコンテンツは扱わず、その場合でも著者が費用をいくらか負担して出版してもらっていることも多く、ある意味では自費出版に近く、出版の産業としての自律性は相当失われてしまったといえる。
逆に著者など個人の側からすると、自費出版にかかる何十万円か何百万円かの金額は、個人の趣味嗜好・道楽で支出できる範囲なので、過去の作家デビューを目指すような勘違いの自費出版ではなく、個人の道楽出版という分野として再定義できるように思う。「ウチの猫がかわいい」とか「ウチのインコが賢い」などのワンポイントであっても、同類のネタをたくさん集めて飼い主が10万円づつでも支出すればマルチメディア的な電子出版にはなるだろう。
自宅を建てた記念に自費出版する人も居る。コンサルタントや富裕層は名刺代わりに本を出している。被災者・被害者の文集などもよく自費出版され、カンパが寄せられる場合がある。こういった市井の情報発信に出版はシフトしつつあるように思える。
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