投稿日: Jun 09, 2010 4:3:26 PM
過去のeBookと今の電子書籍の違いは何かと思う方へ
イーストの下川さんが「自分は狼少年」と言ったほど、eBook/電子出版は永くの間ブレイクするかと思われながら足踏みをしていた。何度も話題にはなりながら、ごく一部の出版社しか着手していなかったのが、ここにきて電子書籍の名の下に多くの出版社がようやく腰をあげつつある。ビジネスのルールとかフォーマットの標準化を話し合う団体がいくつかできている。しかし褌を締め直してかかろうとしたらパンツの時代になっていたというか、土台となるコンピュータ環境は3世代くらい変わってしまった。過去の経験やノウハウの延長上でeBookが伸びられる時代はとうに過ぎ去ってしまったのである。
NECの9801や日本語ワープロがまだ存在した時代からフロッピーの電子出版はあった。それが90年代にCD-ROMでマルチメディア化し、百科事典のCD-ROM版もいろいろ作られた。こういったパッケージメディアはインターネットの普及とともに殆ど姿を消し、辞書などはWebのコンテンツになったり、プロジェクトグーテンベルグや青空文庫のようなフリーのものが前世紀中にWebで読めるようになった。その後主にPDFを対象にした読書端末も作られた。ここまではワープロの延長のようなものであるが、それと3Gモバイル時代のオンラインサービスのKindleは別物なのである。
現在のeBookは書籍コンテンツのユビキタス・オンラインサービスという方があたっている。つまり著者が書いた電子テキストを送りつける出版のアナロジーではなく、人々がコンテンツを読みたいとか必要なときにアクセスして取り寄せるサービスとして仕切り直すべきである。それは人々はWikiやYouTubeのような情報の海から自分に必要なものを手繰り寄せるリテラシーを身に着けたからである。ソーシャルメディアで話題になるとか、タグで検索するとかの情報接触のモードが先にありきで、そこにはまるコンテンツサービスなら、ネットの住人に高い親和性を感じてもらえて、広がる可能性がある。
つまり形はデジタルの本にしたとしても、ネットのライフスタイルやビジネススタイルからみて違和感をもたれるような提示の仕方やサービス形態になってしまっては意味がない。冒頭の3世代コンピュータ環境が変わってしまった要素には、クラウド化、ECの発達、マーケティングの変化などもある。マーケティングは、例えば有料・無料の登録者が100万~1000万オーダーの個人情報を扱う(例えばSNSユーザやTカード利用者など)BigDataの解析やお勧めがマス広告を凌ぐものになったことは、Googleその他からも容易にわかろう。黒船もひとつの重要なヒントでもあるわけで、こういった近未来の視点でもう一度電子書籍の話題を検討する必要がある。
2010年06月25日(金) JAGATセミナー iPad、 Kindle、EPUB…電子出版にまつわるフォーマット議論の先に何があるか #kix0625