投稿日: Aug 17, 2013 1:25:41 AM
富田倫生氏の偉業が引き継がれるように
「青空文庫」の創設者の富田倫生さんが、8月16日に61歳で亡くなられた。彼自身が青空文庫の過去・未来を語る、2011.7.9 ブックフェアでのYouTube映像をあらためてみてみた。富田氏は自分の肩書きを「青空文庫呼び掛け人」としていたようだが、無料で提供する青空文庫は無報酬で作業をする何百人のボランティアに支えられているので、富田氏は自分ひとりが青空文庫をやっているわけではないという意味で「呼び掛け人」としたのだろう。でも中心人物は富田氏であって、彼が16年間たゆまぬ努力をしなかったならば成り立たなかったことで、日本の出版史上でも特筆すべき偉業のひとつに青空文庫はなっている。
青空文庫の命名の由来は「空を見上げたらそこに青空がある。読みたい気持ちがあれば、すぐに作品が広げられる。」という。また電子書籍ではなく電子図書館に富田氏は想いがあった。だから世の電子書籍開発とは一線を画した行動をとった。最初はVoygerのExpandedBookという形で公開された青空文庫であるが、2002年正月ごろに青空文庫の未来はExpandedBookにないと判断して、Voygerの傘の下から離れる決意をされたくだりが、YouTube映像の後半にでてくるところが熱い。
結局はVoygerもXHTMLベースのazurを2004年に出して、 富田氏がこだわったテキストの独立性には対応するようになる。富田氏が想う電子図書館の構想からすると、特定のフォーマットの本しか置けない図書館では未来がないことになる。現状では青空文庫はコンテンツの束のように捉えられていて、どんな読書ビュアでも読めはするのだが、この状態が青空文庫が目指したものではない。どこか1社提供の技術基盤に依存するのではなく、ソースと表示ツールが分離されている状態を作り出すことが、青空文庫というネット上の図書館の基盤であり、その図書館に向けて人々が本当に後世に残したいものだけをテキストで置く、という仕組みを富田氏は考えていた。
だから「青空文庫」のサイトは無料本のカタログという面と対応して、青空工作員マニュアルという制作ボランティアのためのページが充実している。作業はテキスト以外のところは極力しなくてよいように配慮されているし、どんな会社でも青空文庫が利用できるようにレイアウト情報と構造情報のルール公開やXHTML変換プログラムをパブリックドメインとしてソースごと公開している。あわせて青空文庫からのメッセージ 本という財産とどう向き合うかには、「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」が掲げられ、青空文庫が単にテキストデータをアップロードしただけではなく、訂正のお知らせにあるようにテキストの手入れがずっとされていたことも、既存の出版活動を超えたことを富田氏が目指していたことをあらわしている。
私は富田氏をtwitterでフォローしていたが、氏自身が個々の作品の現代文表記で日々悩み続けていたのがわかった。冒頭ビデオ以降に体調不良で作業がとぼとぼとしか進まない様子がtweetされていて心配していた。今日では青空文庫のお世話になっている日本人は膨大にいるはずだが、意外に富田氏の開かれた電子図書館構想は知られていなかったのではないかと思った。ビデオでも現在のボランティア作業者の高齢化と、若い新しい人の参画を呼びかけていたが、このための啓蒙活動も私ら世代のすべきことなのだろうと思った。