投稿日: Oct 01, 2010 11:57:27 PM
変革のための期限が迫っていると思う方へ
過去に書いてきたことの繰り返しになるが、日本人は文字への親しみを益しこそすれ、文字から遠ざかってはいないことは、漢字検定や書道、子供の命名などからもわかるし、実際に読書時間が減っていないことも毎日新聞などの調査から見てとれる。最近荻窪のBookOffに行く機会もあり、いつもその賑わいに感心する。先日は店の表でワゴンセールを行っていて黒山のような人だかりであった。しかし出版業界は不振である不思議については記事『いい加減 戦後を脱却してほしい』でも触れた。出版業界ではBookOffが元凶とか、万引きが原因だとか、果ては図書館が出版ビジネスの邪魔だとか言い出す人がいて、しかもそうだそうだと唱和する関連業界がその周囲にいる。これがさらなる孤立を深めることになることに気がついていないのだろうか。
つまり日本文化に根ざした文字・言葉の世界は、いまでも海外から脅かされることのない大きな国内需要があり、そこに答えていく限り健全な経営はあり得るはずなのに、過去に構築された出版のビジネスの仕組みはそれに対応できず、かといって異なるビジネスモデルを模索することもしない出版社が多くある。先般、魔法のiランドがアスキーメディアワークス系列に入るニュースがあったが、出版社のような組織はもっと活発にM&Aが繰り返されて、それぞれが特徴を持ったコンテンツと、それに適したビジネスモデルがもてるように、淘汰がされるべきである。
既存の出版ビジネスと出版文化は、50年くらいの歴史しかない。つまり戦後に出来上がったもので、最初はさまざまな特需があって勃興し、その後に日本の経済成長期には若者が自分達の文化を作り出していくのに雑誌ブームは力になった。進学率の高まりやビジネスのサービス化で出版の質量ともに充実した。日本人のライフスタイルが欧米に近づいて行き、消費志向の女性誌のような洗練があったように、日本社会の変貌に合わせて出版にもいくつかの山があった。そして今デジタルやネットとの出会いの中で出版は次の変貌を遂げようとしている。しかしこれはレコードやCDの音楽業界にも当てはまる。出版も音楽のダウンロードのようになってしまうことに警戒する人もいるが、それに抗することができるという考えが常軌を逸している。
それはIT化というのは戦後の出版が経験したしてきた小さな山谷とは比較にならないほどの大きなうねりであることに気がついていないからだ。今の印刷物の大量生産は産業革命で始まって、その上に出版ビジネスモデルが成り立っている。しかしデジタルとネットのうねりは、17-18世紀の産業革命の次の大変化なので、その間に発生したビジネスはみんな影響を受けるほどのものなのだ。だから、既存ビジネスモデルを見直すことなく行われる『延命策は、座して死を待つだけ』になる。今はまだ取りに足りないと思われるのだろうが、ひとつはeBookのような取り組みもデジタル・ネット時代へのブリッジになる。もし出版界が取り組まなくても、冒頭の日本人の文字への親しみがある以上、誰かがその需要を汲み上げてビジネスをするであろう。まだ読者に対してgoodbyeを言うつもりがないならば、その世界にジャンプを決断すべき時期である。