投稿日: Aug 24, 2010 11:20:9 PM
他力依存で電子書籍・eBookは不可能と思う方へ
アメリカで近年にeBookが短期に立ち上がったのは、書籍制作の過程がデジタル化した結果、出版社が原稿から始まって校正やオンデマンド印刷のためのPDFまでファイル管理する時代になったからである。それらの転用をうまくすればeBook参入コストはほとんどかからず、副次収入として見合っているからであろう。中国でもeBookは必然と考えられるようになっている。日本でも1980年代後半以降は活版による本造りはマイナーになったのに、その後の電子出版は多くの躊躇があって、辞書やコミックなど除いては弾みをつけられないまま今日に至る。
アメリカとの大きな差は日本では出版社のデータ管理が進んでいない点で、かつて出版社が印刷会社に対してCTSデータを要求した際には、印刷会社はそうしたくないために、渡すためのデータ加工に高い見積を出すとか、難色を示すことがあった。某大手出版社は某事典のデータを他社にライセンスするために某大手印刷会社にデータを渡してもらおうとしたら1000万円のデータ加工代の見積もりが出て諦めたという話をきいたことがある。1990年代には印刷業界と出版業界でタグ・マークアップが著作隣接権になるかならないかの法的論争があったこともある。しかし何が正しいというものはなく、すべては契約をどうするかである。
書籍を作った際のCTSのタグ・マークアップは2次利用には邪魔なので、印刷会社としてはそれをつけたまま出版社にデータ渡しをしても、データ加工に困るのは出版社側で、印刷ビジネスには影響はないはずである。ところが印刷会社には競合する印刷会社があって、出版社が引き上げたCTSデータを競合印刷会社に持ち込めば、うまくするとタグ・マークアップのデータ加工とかデータのクリーニングをタダでやってもらえるかもしれないという目論見もあった。こういった裏事情やお互いがすくんでいる状態と抜け駆けという魑魅魍魎でデジタルデータをベースにした新たなビジネスに舵をきれなかった例もある。
記事『売上げと利益の源泉がねじれる場合』では印刷会社側の裏事情やねじれ構造は解消しておかなくては、結局ビジネスモデルはできないことを書いたが、それに加えて印刷と出版双方がさもしい心で書籍データの可用性を悪くしてしまったといえる。某高学歴出版社の某リーダーは社内の編集者に呼びかけて、君たちが毎日何ページかずつ頑張ってテキスト入力すれば、電子出版は可能になるということをやろうとしたが、思ったような協力を得られず、退職してしまったことがあった。逆にデータ処理能力をもった出版社はMS社へのバンドルで市販本以上の利益を上げたこともあった。
日本では電子書籍に向けての連合がいくつもあるが、基本は自分自身の戦略と戦術がビジネスの成果につながることを忘れてはならない。