投稿日: Jul 07, 2010 11:14:6 PM
今度の電子出版ブームは本物だと思う方へ
アプリケーションでも電子出版でも、新しい動向があるといつも、鶏が先か卵が先か、のように新しいデバイスが市場形成を先導するという見方と、キラーコンテンツが市場を先導するという見方が出てくる。Kindle以来の電子書籍もデバイス先導であったわけだが、逆に日本のケータイコミックやケータイ小説はコンテンツ先導であったといえるかもしれない。結局は両者が抜きつ抜かれつの競争をしながら市場を盛り上げていくのだろう。その意味では特定のデバイスに固執するのも、特定のコンテンツに固執するのも、生き残っていくにはふさわしくない態度だ。
KindleやiPadが話題になるのは、他の電子機器よりも一歩抜きん出た可視性があったからで、これがキラーコンテンツを誘っているのが現状であろう。これら読書端末のようなものがどの程度の進歩であるのかというのは、なかなか定量化して捉えにくいが、先般ニールセン・ノーマン・グループから紙の本とこれらの読書端末で、読む速度にどのような違いがあるかの実験結果が発表された。これは『よく読書する』24人にiPad、新Kindle、紙の本で、ヘミングウェイの短編を読むのにかかる時間を調べたものである。実際の実験方法はわからないが、過去から読みやすさの研究があったことを思うと、実験方法そのものが結果に大きな影響を与えるので、数値だけで判断できる部分はそもそもそれほどない、と考えて結果を見なければならない。
例えば過去には、新聞や雑誌でも文字の大きさ、フォントデザイン、組みかた、紙面サイズで、どのように可読性や視認性が違うかという実験があった。しかしレイアウトデザイン的なところは『馴染み』と関係していて、読みなれたものが一番読みやすいという結論になってしまう。要するに人間の脳には馴染んだ『読み方』がプリセットされていて、それに従って読み進めるものが最もストレス無く読めるものになる。だから大体は多数派が勝つ、という面白くもなんとも無い結果になってしまう。
今回の調査は短編を読み終わるのに平均17分で、紙の本に比べてiPadは6.2%低下、Kindle2は10.7%の低下で、紙の本がもっとも速く読めた。また使い勝手の満足度を7点満点でアンケートしたところ、iPad=5.8、Kindle2=5.7、紙=5.6%と横並びであるにもかかわらず、PCでの小説は3.6%はっきりと低かった。このうち前者の速さについては、実験方法によってはあまり差はないとも考えられる(私は紙の本の馴染みが大きく利いていると疑っている)。後者の結果ははっきりしていて、これも電子ペーパーの開発当時の調査と同じく、人間が自由な姿勢で読めることに重要な鍵があり、読む姿勢の固定化を強いるPCは長時間付き合ってられないものとなる。つまり読書はお仕事モードでするものではなく、休憩モードで行うもの、を実現するデバイスができたのだといえる。
これからのタブレット端末の普及は間違いない。そこでの焦点は『休憩モード』の時間を奪い合うことだ。それは紙の本も電子書籍もゲームもアプリも、いろいろなものが競い合う。電子書籍のコンテンツ競争は紙の本と比較するだけでは不十分で、『休憩モード』というTPOで勝ち残れるものを見出すことだ。