投稿日: Mar 22, 2012 12:50:53 AM
Amazonは出版ビジネスの土台を変えつつあると思う方へ
情報メディアは数多くあれど、書籍は今日の文明を支えてきたものである。今の成功者は紙で学んだことに基礎を置いている。書籍がかつてほど売れないにしても、ビジネスをする上で卑下する点は何もないと思うし、その使命の延長上には今までの書籍流通や書籍の形状ではできなかったことを、これから開発していこうという考えは世界中にある。こんな議論も1960年代に視聴覚教育が登場したり、1980年代にデータベースサービスが登場したり、その後のCD-ROM、インターネット、モバイルなどなど、新たなメディアが登場する度に繰り返し言われていたことである。この方向に間違いがないにしても、そう進むためには経営を変えざるを得ず、そこが日本では一番大きな課題になっている。
世の流れを真っ先に捉えているはずの新聞社やマスメディアは、こういった動向に興味を示してきたものの、そこが新たなメディアを牽引することはできなかった。日本の新聞社に対してもっともがっかりした点は、新たに新聞を出そうというところが登場すると皆で潰しにかかることで、製紙会社に圧力をかけて紙を供給させないとか、情報の質で競争して切磋琢磨する姿勢がなかったことである。出版の場合はもっと自由な競争環境があるのだが、実際には実績のない新興社が流通面で適切に扱ってもらえないことは多い。要するに情報の質で自由競争をする環境を作らないと、新たなメディアの可能性を花咲かせることは難しいので、従来の業界体質ではメディアビジネスは閉塞することになる。
だから個々の企業にはできない突破口を共同で行なう意義はある。出版デジタル機構がどのようなものか知らないが、メディアビジネスの自由な環境を作り出すのか、それとも過去の護送船団を繰り返すのかというのは見所である。自由な環境という点では個人出版・自主出版に門戸を開くのかどうかも問われる。直接でなくても国が肩入れするならそれも必要なはずだ。今の議論ではISBNコードをもたないところでも出版コンテンツを出せるような方向にある。デジタルで自分の可能性が開けると信じているところが集まるような出版デジタル機構にならないと、どんなに補助金がつこうとも金をドブに捨てるようなことになるのは明らかだ。
記事「不足しがちなビジネスモデル研究」では農産物の出荷の1割ほどが産直になっていることを書いた。産直の形態はさまざまで道の駅から通販までいろいろある。つまりいろんな販売の努力がされている。これも日本の農産物は自分が作った商品の力を信じているからできることだ。農産物流通の中で産直の割合が増えても限度があることは明らかだが、2-3割にはなるかもしれない。それはITとネットで流通のコントロールが容易になるからである。であるならば出版も同様であろう。印刷された本でも電子書籍でも流通の自由化ができて、そこで各人が努力を重ねられるプラットフォームを提供すれば、まずロングテール部分は活性化する。
しかしベストセラー狙いはマスメディアによる広報宣伝が必要なので出版プラットフォームのお世話になる必要はなく、単に書店のひとつとしてしかプラットフォームサービスを考えないだろう。ここで言う出版プラットフォームとはAmazonのようなものを指す。Amazonはロングテールから世界的ヒットまでいろんなビジネスモデルに対応するプラットフォームに仕上がりつつあり、書店の顔も流通の顔も出版社の顔ももっていて複雑に見えるし、Amazonへの誤解も生じているようだ。
Amazonについては、EBook2.0 Forum主宰/EBook2.0 Magazine編集長の鎌田博樹氏がずっとWatchしてその背景を考察してこられたので、複雑なAmazonの顔を解きほぐすセミナー 「出版を最先端ビジネスにしたAmazon 」を企画した。その中で「Amazonと付き合うための5ヵ条 - 基本と応用」という形でプレゼンしていただいて、ディスカッションをしたいと思う。