投稿日: Jun 14, 2010 11:0:58 PM
電子書籍を汎用フォーマットにする理由は何かと思う方へ
日本ではなぜか今ごろ電子書籍に熱くなっていて、フォーマットやビューア・リーダの話題に事欠かない。しかし、オーサリングツールやフォーマットやビューア・リーダを開発するところは限られている。今まで当事者であるべき出版社があまり関心を示さなかった反動で、今更議論するようなことでもないことに熱くなっているようにも思える。DTPの開発時に出版社に要求を聞いてもDTPそのものに関心がもたれなくて、大した反応が無かったことを思い出した。今はEPUBの日本語化などに関心があるかもしれないが、組版レイアウトはDTPの段階で大方は決まっていてJIS X 4051「日本語文書の組版方法」などにも反映されている。その流れで、W3C「日本語組版処理の要件」を公開(2009/6/4)もできている。EPUBのCJK拡張もその反映になろうとしているわけで、これらの議論過程で多くのパブリックコメントの機会もあった。もし出版界で「オレたちの意見が入っていない」と思う方がいるなら、電子書籍に限らずJISからの流れを振り返っていただければ、日本の編集・写植・活字・編集・大手印刷などの中心部分の方が関わってきたことがわかるだろう。
むしろ今の中心的な課題はビジネスモデルである。よく電子書籍になると音楽のダウンロードと比較されるが、それでさえよく議論されているわけではない。この2つは似た点(コンテンツ流通のチャンネル多様性)もあるが、販促という点では商品特性をもう一度考えなければならない。書籍の最大の特徴は「立ち読み」である。書店は人を集める力があり、立ち読みを機会に本を買ってもらう構造になっている。しかしレコードは店の中でそれほど自由に試聴はできなかったので、ネットで試聴することは大きなメリットで、ECやダウンロードにつながっていったと考えれられる。だから電子書籍をネットで売るとなると、「立ち読み」機能をどうやって実現させるか、が課題になる。
今まで行われている「立ち読み」的販促は、部分的、期間的、数量的な無料化をするフリーミアムとか、「チョットだけよ」のチラ見であり、今後もそれは変わらないだろうが、それだけでは店頭の「立ち読み」にはかなわない。だから電子書籍の競争領域となるところはまだ未開発である。そこがどのようなものかを推測すると、「チラ見」ではなく全文が対象で、Google検索のように読者の関心部分を取り出して見せてくれるようなものだろう。しかし人が本をパラパラめくるときには、具体的な検索キーワードがあるわけではないから、本人の過去の購入や関心のデータや、Amazonのお勧めのような商品間の相関を捉えた情報も大いに使うことになる。また本をお勧めする局面は必ずしもネット書店ではなく、いろいろなアフィリエイトの機会がネット上にはあるので、そこでの露出を有効に使うのが販促上は最も重要だろう(これに関しては別項で)。これらはある部分はECで相当進んできている。
こういったネットでの「立ち読み」を実現するためには、電子書籍の中身そのものが「検索エンジン」やこれから出てくるであろう「お勧めエンジン」で扱えるようなデータ形式になっている必要がある。つまり今のインターネットの発達が検索エンジンのお陰であり、その恩恵をこうむるにはHTMLなどのデファクトのフォーマットになっていなければならないように、もしガラパゴスフォーマットになってしまうと、これから発達するソーシャルな技術と関連がつけられなくなって、自分の書店でしか見つけてもらえないものになってしまうことを留意しておこう。それでいいなら独自にやりなさい。