投稿日: Sep 28, 2010 1:3:0 AM
印刷会社は廃墟になるのかと思う方へ
印刷白書2010(JAGAT)を眺めてみると、20世紀末に予測していたことが近年になって「やっぱりな」ということが多くなっていて、とってもやるせない。過去のマネジメントから抜けきれないでいると、過去を知らずに現実から出発している新規の会社に負けていくことは目に見えているからだ。
成熟化と2極化
消費動向では、良いものを求めるのと安いものを求めるという一見すると矛盾する傾向が際立ってきた。自分にとって価値あるとかこだわりのあるものには妥協しない姿勢と、100均でもとりあえずあればいいものに2極化するのは、「安かろう悪かろう」は不安だが安くても安心なものが登場したからだろう。
以上は個人の価値観によって売れるものが変わることであり、マスマーケティングではなく個々人の価値観にどう訴えるのかが問われる。印刷需要は全業種が対象となるので足し合わせるとGDPと連動する。かつては少しGDPに先行して増減していた。しかし安売り傾向の中では販促費も削られチラシなどは減っていく。しかも個人の価値感に訴える売り方はネットの方で進んでいるように、時代の変化に沿った販促の工夫は必ずしも印刷ではできていないので、印刷は右肩下がりになっている。
印刷業の低迷
21世紀に入って経済産業省での印刷の扱いは製造業から文化情報関連業課の扱いになった。製造業としての伸びを中央官庁が見限ったことでもあり、物量的に伸ばす施策から、コンテンツ関連の施策に切り替わる。しかしすぐに転換はできないので、印刷業の下降はしばらく続いていく。下降の象徴は一人当たりの出荷額とか1事業所あたりの出荷額の低迷で、紙の製造や紙加工業に比べて、紙にインキをのせる仕事は半分以下の出荷額でしかなく、一人当たりの仕事としては製造業の最下層に位置している。つまり紙素材の価値に比べてインキをつける会社の価値がうんと低いのである。
しかし日本の印刷現場に何か大きな問題があるのではなく、製造にかかわらない人の付加価値があまりにも少なく、印刷価値の足を引張っているのである。印刷にぶら下がっている人数の割りに価値を出していないという贅肉部分が大きすぎるからである。それはネットで印刷受注するような、贅肉のない企業が伸びていることから明らかだし、既存の営業効率の悪さを物語っている。
サービスの取りこぼし
100名以下の印刷会社の縮小が続き規模間格差が拡大していく。上記のことは大手印刷会社の方が中小印刷会社よりもうまく経営できていることからもわかる。印刷業界の会社規模は極端な末広がりのピラミッドといわれたが、裾野が切り捨てられていく。
印刷業の得意先は印刷業と言われたほど、下請けとか仲間仕事が多かったのが、技術革新とともに整理されてきたことが、中小印刷業の減少の主要因である。そもそも印刷の仕事があふれる状態の時代に中小印刷業が増えたので、当然と言えば当然の結果だ。仲間仕事の多さが一人当たりの出荷額の低さに関係していて、得意先に提案営業ができないところは経営改善の手が打てないからである。
産業連関で見ると、印刷の仕事は他に生産誘発する要素が多い。これは関連サービスを自分のビジネスとして取り込めていないことを表している。つまりバリューチェーンをカバーできていないわけで、印刷工程だけやっているのならジリ貧から脱却できない。
売れないほど点数が増える出版
出版市場は長期低落傾向が続くが、それに対して何をしているかというと出版点数を増やしてロット数を下げているので、売り上げ低下に輪をかけてますます利益がでないようになる。このような矛盾がまかり通るのは、出版・流通・書店という三つ巴業界構造が、出版社の独自の努力という「抜け駆け」をさせないからだ。これは一種の護送船団ともいえて、負の部分もみんなで分かち合おうという構造で、現代の問題解決につながらない。
また新聞雑誌などの出版を支えてきた広告はネットと比べて「広告効果」という点で優位な点が不明確で激減した。これは広告主からすると「メディアの王様は裸」ということが公言できるようになったからで、逆にいえば既存メディアを権威づけるような内容がともなっていなかったともいえる。
以上のようなこと全てが関係して、結果的に印刷機は廃棄されはしても新設されることが極めて稀な状況になっている。こういう生産設備のマネジメントが縮小均衡に向かうと同時に、かつては定年まで配置転換で雇用していたところの印刷業の付加価値の足を引張っている人の縮小均衡をどう切り抜けるかが最大の問題だろう。