投稿日: Oct 17, 2010 11:5:34 PM
かっこイイ電子出版物はどのようにして生まれるかと思う方へ
10月15日の「近未来の電子書籍はどうなる」セミナーの2番手は、雑誌や書籍の設計やデザインをしてこられたホットタイプ工房の今氏亮二氏で、eBookやネットにおいて媒体設計(および編集・デザイン)にどのような可能性がもたらされるか、それへの取り組み方について話した。記事『eBookの進展予測』で書いたように、従来の紙の出版と違う様相が萌芽として今のアメリカの電子書籍・電子雑誌にもみられるので、今氏氏はいくつかの先進的事例を挙げて説明した。プレゼンのサブタイトルが、「個人は目的になるのだろうか?」となっていて、これは個人相手の出版ではなく、これからの情報の細分化の進展の中でたどり着くのは個人なので、個人にeBookなら与えることができるコンテンツ、個人が選択するコンテンツ、個人が参加するコンテンツというのを、主に雑誌分野の例で取り上げた。
iPadの登場以来、相当金もかけて頑張った電子雑誌がアメリカで登場し、すばらしいと評価されると同時に、なかなかビジネスとしては離陸しない面もある。本当は新たな媒体でのビジネスモデルも含めて、どのような対象にどのようなメソッドでコンテンツを提示するかを考えなければならないが、ここでは紙面設計に近いところからの検討を行った。メソッドというのはコンテンツと対象をつなぐ何らかの方法のことで、そに広がっていく「可能性」があるという。それはむしろネットからやってくるもので、今までの紙の本の継承ではなく、むしろ印刷から離れて物質性を剥ぎ取っていく中から電子書籍が姿を見せる。このようなメソッドを「すばらしいと評価される」例の中から紹介した。
紙の雑誌に比べて判形が小さいこと、文字量の制約、冊子の全体像やページの並びが大まかに捉えられないこと、などのマイナスをどうクリアするか、あるいは逆手にとるか、というところにいろんな工夫がある。まずページを探す方法が必要で、ホームページのグローバルナビゲーションのように画面の一部に常時目次を出すとか、ページ・コンテンツのサムネイルを並べるとか、メニューのカスタマイズができるとか、いろいろな方法があるが、これはその冊子の目的が先に明確化されていて、それを「形」にしたものである。つまりメソッドとは目的から選ばれる。ちなみに海外ではこういったメソッドが多様であるのに対して日本はあまり面白みがないという。
また画面の制約に対しても、クリックとかスクロール、またネットとつながって外部のコンテンツをもってくる(ブラウザのように)ことで、むしろ紙の面積の制約をこえることができる。これはWebでやってきたことがeBookに生きるということでもあろう。また紙面の裏にあるコンテンツがカスタマイズのような2次利用できる可能性もあり、たとえばレシピを選んで、カレンダーに結び付けるとか、ショッピングに結びつけるようなこともでてくるだろうが、どこまでの機能を電子書籍・eBookに含めるのかという問題もある。一般論としてeBookの可能性は広くとも、それを活かすには充分に整理された考え方が必要であると、今氏氏はまとめた。つまり紙面のことばかりに捉われずに、電子書籍のもつ「大きさ」つまりどれだけのブランドを築けるか、個人への影響はどれほど大きくなるか、また情報と個人の「距離」とか両者が引き合う環境を電子書籍のなかでどう考えるか、などにもっと時間を費やす必要性を説いた。