投稿日: Dec 12, 2010 10:55:40 PM
電子書籍に閉塞感を感じる方へ
その昔、大学生の頃になると就職の話題も出るので、その時に日本の大出版社は企業としてはそれほど評価されていないことを知った。それまで感じていた出版社の社会でのプレゼンスと、実際の会社経営のギャップが非常に大きいことにびっくりした。知り合いはベネッセやリクルートに入社した。今売り上げが1000億円を越える出版社は集英社、講談社、小学館の3社しかなく、TUTAYA・CCCが2000億円、yahooのサイトだけとか楽天はそれ以上、当然ベネッセやリクルートは個別でも出版トップ3社を足し合わせても届かないほどの売り上げである。過去には日本の出版社は日本自体の成長に沿って伸びたとはいうものの、出版の周囲や関連したところにもっと伸びた世界があることに注意を払う必要がある。
記事『電子読書の背景ができつつある』では、電子書籍を見つける段階から、本を読む行為、これからどのような方向に読み進むかという方向性について、読書モデルを考えてみた。要するに出版社自身はWeb、スマートフォン、デジタル放送などで本を認知させる能力はあまりないのが現状であるのに対して、出版の周囲や関連した会社は既に出版社に比べて桁違いのビジネスになっていて、レンタルビデオのTUTAYAが書店としては日本一になったように、生活者とのコンタクトでは最前線にある。冒頭で出版社のネームバリューと会社経営のギャップを取り上げたが、今はネームバリューでも出版以上のものがあるのである。アスキー総研の電子書籍・コミック調査で利用しているサイトのトップはダントツでYahoo!コミックスであった。出版社老舗が集まった文庫パブリはアクセスに関してはYahoo!コミックスの10分の1以下だろう。
YahooのWebはソフトバンクの中のでは「カルチャー事業」というくくりになっているが、今ソーシャルメディアなどの影響力が大きくなっていく中で、カルチャー・エンタメの話題の中に書籍ネタも出てくるので、動画配信とかネットでの「カルチャー事業」的なところから本への興味の喚起がされるようになるはずだ。では今までの出版社は従来は比重が多かった印刷手配という仕事がなくなる代わりに何をするのか? ひとつは「カルチャー事業」と手を組んで、コンテンツ提供しながら本の販促をするという仕事があるだろうが、自分中心に世界が回るような感覚では、例えば「TUTAYA+ガラパゴス」のような競合がいろいろ出てくる中で競争力を失っていく。このような書籍の企画の外の仕事で今以上のことをできるのだろうか? では広告代理店などがそのようなプロモーション分野に出てくるのだろうか?
日本では電子書籍にもちょっと閉塞感が出てきたようにも思えるが、電子書籍はコンテンツも制作もそれほど問題はないはずで、閉塞感は既存の出版社固有の現象かもしれない。電子コミックが専門サイトから流通しているように、スマートフォン・タブレットの普及に合わせて、ニッチな電子書籍流通サイトが増えていって、それらは出版社というよりは「カルチャー事業」にぶら下がって、「カルチャー事業」での人の往来を対象にビジネス化する可能性が高い。例えば理科の実験などは動画付きの方がわかりやすいし、スマートフォン・タブレットなら材料の入手・準備から実験そのものの際の参照、実験の動画撮影、結果のメモまで使えるので、電子教材化しやすい。これは学校・塾・参考書といった分野だが、他にもリアルワールドと専門書の間を結びつけるような用途にモバイルな電子出版が登場するだろう。
今後はこのような2つの世界をまたぐプロジェクトにおいて、誰が、どのような仕事を受け持つのか、という提携関係構築のリード(プロデュース)をするところがビジネスの中心になるだろう。