投稿日: Oct 04, 2010 10:18:32 PM
電子書籍の概念は収束しにくいと思う方へ
電子書籍という名称は正確にいつから始まったのかわからないが、10年前にeBookがブームになった時よりは後だろう。欧米のeBookはPDFを開く読書端末というイメージが強かった。日本ではこの分野はコミックが中心で発達したので『書籍』を自称するのはふさわしくないが、この言葉の発端は読書端末の開発の方にあったのである。それは専用システムなのでWebの技術とは全くコンセプトの異なるものであった。その後の日本ではケータイコミック、ケータイ小説が大きく育って、読書端末とともに『書籍』という名前は一旦棚上げにしていた。しかしケータイ電話もHTMLの派生であり、シャープのXMDFもその世界を背景に生まれた。その間に欧米では電子ペーパーを使う新しい読書端末の時代に入って、そこではガラケーベースではなく、WebをベースにしたHTMLの派生でフォーマットができていった。
これは、タギングとかフォーマットという面だけではなく、引きずっている背景の考え方の違いになっているかもしれない。2007年から伸びたAmazonKindleは単に電子ペーパーを使う読書端末というだけではなく、バックにサーバとつながっている使い方でWebでのサービスモデルである。日本のケータイもバックにサーバがある点では共通だが、それは主として課金とか利用者管理であって、サービスという膨らませはあまりなかった。しかしオープンに開かれたWebの世界がバックにあると、例えばGoogle検索が可能になるとか、他のところからリンクが貼れる、また書籍の中から外の世界にリンクが貼れるなど、応用の可能性が非常に広いものになる。Amazonはどのようにビジネスをしているか考えてもらえたい。Google検索やアフィリエイとでネットの世界からたどり着く。そこで立ち読みもできる。これはまず電子書店にアクセスしてから本を検索するのとは圧倒的にリーチが異なるのである。つまり流通面をどれだけ考えているかということである。
おそらく独自フォーマットの電子書籍を始めると、流通対策とか立ち読みとかレビューなどを別途行わなければならないのでオーバーヘッドは大きくなる。書籍点数が何十万点から何百万点の時代になっていくと、このことの意味は大きい。また新規に商品を登録するときも手間が異なるはずであり、日本は従来の出版が発行しっぱなしで流通・販売は直接関与しない経営モデルが日本の電子書籍にも影を落としている。このようにECという点ではWebの方が優れているとすると、Webにコンテンツを載せて本らしく見せるものでは何故ダメで、別途電子書籍にしなければならないのか、という疑問をもつかもしれない。電子書籍の実態はHTML5の時代(特にマルチメディア的電子書籍では)には、HTML5に吸収されてしまうのではないかという見方もある。
それでも多数の人は本が培ってきたヒューマンインタフェースには、画面にはない何かがあると思っている。Kindleを購入した人は、開梱した時に画面に紙が貼ってるのかと思うほど、自然に感じると言う。一方でiPadや、特にiPhoneまた今世の中に出つつある高解像の液晶画面も評判がよく、Kindleは要らないという人もいる。つまり、読書端末を見て、触って、それで判断するとか、考えが変わる要素がみられる。これはコンピュータのlook&feelが、このような論理ではかたずけられない微妙な領域に進んできたのかという感慨でもある。しかもこの秋も新製品ラッシュで、デバイスの値段は下がり、デジカメ並みにみんなが持ち歩く日が近づいている。今までの電子書籍・eBookの固定概念もはずすことをしないと、これからのビジネスは判断を誤ることになるかもしれない。
そこで、あまり日常の小さなニュースに惑わされることなく、ザクッと3-5年先を予測してみようということで、「近未来の電子書籍を考える」セミナーを開催して、改めて電子書籍とは何者かを話し合ってみようと思う。 → http://www.postmedia.jp