投稿日: Jun 26, 2012 11:57:28 PM
ネットが出版経営にどう影響するかと思う方へ
ネットでの流通革命の先に脱大量生産という革命がありえることを記事『流通が変われば作り方も変わる 』で書いたが、それはすでに随所で起こっている。ネット時代に伸びた会社にパソコン通販のDELLがあるが、その理由はパソコンの設計がひとつでも提供する製品仕様はCPU、メモリ、HDD、などなど諸要素の組み合わせ方によって多岐にわたり、それらを在庫としてもつと大変な在庫になるところを、DELLはネットで注文を受けたものを組み立てて出荷するBuildToOrder方式にして、工場直送にしたからだ。これは機種は多いが共通の要素を使う製品の場合には当てはまることが多いので、いろんな製造業が手本にした。某複写機複合機を入れ替えた時に観察していると、本体がいくつかに分割されていて、それらはそれぞれ異なるところからユーザのもとに届けられ、サービスの人がやってきて開梱して組み立てる。つまり工場で組み立てる代わりに、顧客の事務所で組み立てているのである。要は組み立てが容易になるように要素を作ることである。
ある学校で入学式の後の教科書の配布が大変だという話を聞いた。それぞれ履修する内容によって個人々々に渡すものが異なるし、それが一斉に行われるので、受け渡しの場所の確保から人員配置からロジスティックスまで一大イベント化する。しかしその半分でもeBookでダウンロードになればどれだけバタバタ感はなくなることだろうか。ネットでログインすれば、個人宛にBuildToOrderが自動でできるようになる。しかも印刷物の本のように授業で必要なところも必要ないところもセットにした本ではなく、1冊1冊の本そのものもその学科・期間・先生によってBuildToOrderが可能になる。
これを実現するための仕組みもネット上で先生が簡単に出来るような時代である。例えば先生がシラバスを考える際に、教材を参照するサイトとか、自分の教材をアップロードする仕組みとか、またそれらのコスト計算とかはリアルタイムでできるし、それらを学部や学校に申請して認可される仕組み、それらの情報を学内で伝達したり、シラバスとして公表したり、学校案内に流用するような仕組みなども、Webの連携で可能である。
コンテンツ側から考えると、出版社などが叢書・選集などをバラしてモジュール化しておけば、上記の学校とか読書会向けのサービスになるばかりでなく、新たなコンテンツが増えるたびに叢書・選集などを作り変えるのも楽になる。各年ごとに叢書・選集を作ってもよい。これらは別にデジタルの出版には限らず、こういう仕組みが動き出していれば、オンデマンド本も印刷製本の実費プラスアルファだけで人件費は最小限で可能になるだろう。逆に今まではオンデマンド本をするには、前工程の壮大な組み換えが必要なために実現できなかったともいえる。
BuildToOrderは全く異質な製品を作るとか、今までに無いマーケットを見つけるというものではなく、顧客のニーズにフィットするオリジナルなサービスを可能にするものである。サービス指向のビジネスをしていけば必然的に到達するものであろう。新たな顧客を見つけるコストが高くなる中で、従来顧客の満足度を高めることの意味は大きくなる。