投稿日: Jan 30, 2012 12:50:34 AM
自立したビジネスを目指す方へ
日本の高度成長期にうまく機能した出版・取次ぎ・書店の三つ巴連携が、今までのモデルとは異なる新たな試みをする際の束縛に変わってしまったのは、出版のピークを過ぎた1997年くらいからである。それまでも電子出版への取り組みは多くされていたが、それらは儲からなくても勉強になればよいという緩さがあったが、紙での本業が下り坂になると電子出版に投資する人や金は減っていった。紙のビジネスが崖っぷちに近づくのなら、代替ビジネスに本腰を入れるようになってもよさそうなのだが、独自のビジネスモデルを立ち上げることは本業の三つ巴連携体制からははばかれることが多かった。その証拠に個別のビジネス開発よりも何々協議会というグループが電子出版の分野では多く作られた。しかしそこからは何も新しいものは生まれていない。
また三つ巴連携が長かった出版や、それにぶら下がっていた編集プロダクション・印刷もマーケティングは身につける機会が少なかったので、それぞれの持ち場でデジタルメディアに向いた企画や制作・表現方法を考えたり開発していても、三つ巴連携に匹敵するような生活者へのリーチができずに、Web書店で店晒しになってしまったものが多い。Web書店はほぼタダで開店できるものの、それ自体にはマーケティング機能はないから、こうなるのは当たり前だった。結局Amazonや楽天のようにEC側からのアプローチの方がビジネスとしては成立しやすいのだろう。
私のみたところでは、出版・編集・印刷側が自力でデジタルメディアビジネスをする際の弱点は、企画・制作と同時にマーケティング・広報をできない点で、とりあえず作ってから売ることを考える、みたいなところがある。企画時点でどういった対象にどのように受け入れられるかの仮説と、販売チャンネルとアプローチ方法の仮説は表裏一体のものであるにも関わらず、後者を担当するところが弱く、編集・制作の都合で作ってしまう点だ。
マーケティングというのは従来は専門の会社に任せて、お金を払ってお願いしていたものだが、そんな丸投げで他人が考えたものがビジネスになるのは、制作に大変なノウハウが必要だった時代の話である。しかしデジタルの制作方法になって、制作面の違いはSOHOも大会社も大差ないものとなったので、PCの制作ツールを使っているだけでは独自ブランドは築けなくなっている。電子書籍の画面を見て出版社の雰囲気を嗅ぎ分けることは困難だ。
むしろ独自のマーケティングこそが独自のブランド構築につながる。しかもアスキー総合研究所の国内ネット・コンテンツに関する調査MCS(メディア&コンテンツ・サーベイ)など、メディア利用に関して誰がどんなメディア・コンテンツを好み、どのサービスをどのように利用しているのかを調べられるものが出てきていて、マスマーケティングで見えていなかったところも見えるので、かつての丸投げ時代の金太郎飴的な商品開発から抜け出ることができる。
これ以外にも日々いろんなサーベイをWebで見ることができて、次第にタイムラグが少なくマーケティングの仮説を作れるようになっている。こういったマーケティング調査の先にSNSを使用した検証が可能になっている。以前は漠然とした仮説に基づいて賭けのように新商品を投入していたのが、SNSでの反応を見ながら徐々にターゲット層にフィットした商品に仕上げていくことができるようになったのである。だからメディア産業も制作システムありきではなく、マーケティング・マーチャンダイジングをベースにしたものに切り替えることで、護送船団から乳離れできて独自展開できることになる。