投稿日: Jun 21, 2012 1:47:17 AM
パラダイムシフトの予兆を感じる方へ
電子出版再構築を意図した研究会「オープン・パブリッシング・フォーラム」の準備として、6月20日に絵本アプリ「こえほん」のプレゼンテーションと出版ビジネスをサービス指向で再構築するテーマでのディスカッションを行った。このセミナーの案内にあるように、企画そのものが紙の出版の発想に縛られず、人と人のコミュニケーションを取り入れ、コンテンツをベースにしたサービス設計という視点がしっかりあったことが印象的だった。絵本のコンテンツの主要部分である昔からの名作はパブリックドメインであるので利用上の権利問題はないが、読み上げの台詞や絵の強調などのディレクションにノウハウがある。これは利用シーンから逆算されて考えられている。
この利用シーンからの視点は、「こえほん」のさまざまな応用展開を広げている。たとえばウルトラマンものなどでは、録音機能がまた違った役割を果たし、家族でいろいろな役にわけて「ごっこ」ができる遊び性が拡大している。悪役をお父さんがやって、こどもがそれをやっつけるなどである。また幼児に対するコミュニケーションチャンネルという性格ができてくるので、教育的なコンテンツも増えようとしている。生活者が参加するメディアになることで企業のキャンペーンとのタイアップも起こる。当然マルチリンガルにできて海外戦略もある。
つまり絵本コンテンツをベースにしても、紙の出版の何倍もの利用可能性がでてくるのがデジタルメディアの特性で、単価が紙の本よりも安くなるにしても、サービスの複合化によってビジネスを伸ばせるようになる。こういったことはあまり出版界では取り組まれてこなかった。「こえほん」のアイフリークも元はデコメ素材の会社で出版経験者は皆無で絵本をスタートしている。
すべての出版が複合ビジネスをするべきと言っているのではないが、今までと違う方法で生き残りを模索している出版社にとっては、デジタルメディアのビジネスがどう成り立つのかを研究する必要があろう。
電子書籍元年とか黒船云々を問題にするのは意味がないことを記事『電子書籍を動かすのは「黒船」や「元年」ではない』に書いたが、日本国内の無為な議論をよそに状況は着実に進んでおり、日本の大手出版社もEPUB3に舵を切るようになった。当面は従来ドットブックやXMDFで作った電子書籍をEPUB3に変換するのに忙しいのであろうが、これからの新規に関してはオープンな土台の上でどのようにeBookビジネスをすべきか、白紙で考えなえればならなくなる。それは従来のマルチメディアのような「こんなことができる」という技術指向ではなく、利用者がどんな価値に対してお金を払うのかというサービス指向で出版を考えることに、必然的になるであろう。
IT化の流れの中にコンテンツビジネスが成長していくというパラダイムシフトに対応した電子出版再構築研究会のスタートとして、グローバルなビジネスとしての出版の現状と課題について、プレゼンとディスカッションを、7月6日(金)に行います。
関連情報
オープン・パブリッシング・フォーラム<特別セミナー> 7月6日(金)15:00~16:30 (90分)