投稿日: May 12, 2011 9:50:53 PM
紙は不滅だと思う方へ
印刷はもとより魅力的なプリンタにも人々の関心が行きにくくなっていることを記事「プリントに未来はあるか」で書いた。またオフセット印刷の領域に次第に食い込むと目されていたオンデマンド印刷に関しても、この10年、特にここ数年でイマイチ感が強まっている。かつてオンデマンド印刷のアワードの審査員をしていろいろな事例をみたり、プリンタベンダーや販社が応用例を開発していたころから考えても、ユーザー・ベンダー双方とも、その展開は進んでおらず、踊り場状態にある。ただカラー出力エンジンのダウンサイジングが進んできたので、それなりに導入はされているが、利活用が拓けないなら今後のビジネスの成長は難しい。
デジタル化は前世紀末から始まってはいるが、21世紀に入って紙媒体よりも先にデジタルデータで発信する「BornDigital」が広範にみられるようになった。画像については紙に出すなら300dpiの解像度は欲しいところが、画面では72とか96dpiでも済んでしまうので、先にWeb用を用意してから紙用に転用し難いようなことがあるが、それがもっと広がるだろう。紙媒体が先に作られて、そのデータを後でデジタルにしていた時代では、コンテンツ利用の許諾やライセンス問題も「紙媒体」前提であった。そのために自治体の広報誌のような地域限定の印刷物の内容をWebに載せようとすると、他地域の関係ない人に見せるのはやめてくれという声があがったりする。これと同じように「BornDigital」で先に許諾やライセンスが考えられるようになると、後で紙媒体で使おうと思っても許諾がされない場合が出てくる。
これは最初に載る媒体が持つ特性として、何らかの限界があることを皆が承知しているのに、他の媒体に載るとなるとその制約が変わるために承知できなくなるということである。例えばいったん印刷物になると誰がどこで見ているかわからないものになるので、日時を限定で情報を見せるにはWebやケータイの方がコントロールができるので便利ということになる。アダルトものなども18歳以上の認証で見せるというのはデジタルの方がやりやすい。ストリーミングなどもデジタル特有の制約をもっていて、ダウンロードするものと使い分けられている。デジタルメディアでは特定の条件の下に公開を許諾することがやりやすくなる。
このようにデジタルやネット利用であることを前提に許諾されたりライセンスされたものは、紙媒体では使いにくくなることが増えるだろう。契約上はクロスメディアでの包括的な利用を許諾してもらうように努力するのであろうが、急いで使いたいコンテンツなどはとりあえず目下の用途を優先して契約するだろうから、包括的許諾がデフォルトになるとは考えられにくい。こういったことが契機になって、本当に紙媒体を作らなければならないか、それはどういう意味があるのかを再考することが起こる可能性がある。そうすると単に惰性で作っていた印刷物は真っ先に減っていくことになるだろう。
デジタルプリントの成長が見込まれたのは、紙媒体は揺るがないという前提があってのことで、これからは紙媒体の制作プロセスや利用習慣ではなく、デジタルも含めたクロスメディアな視点に切り替えないと、新たな利活用を目論む今後のプリントビジネスは描けないだろう。