投稿日: Jul 31, 2011 11:0:32 PM
自分の殻を脱がないとデジタルメディアはできないと思う方へ
この3年ほど、電子書籍のビジネスについて人前で話しをする機会が時々あるが、我ながら相変わらずの話になってしまうので憂鬱でもある。それは日本の状況が一向にビジネス化の気配を見せないのは、電子書籍関連の技術のせいではなく、日本独自の出版と流通の仕組みのせいだからである。技術は世界中どの国にも同等の影響を与えるが、各国の事情によって技術の吸収の仕方が異なり、ひいてはビジネスの変化にも差が出てくる。だからいくら技術の変化を説明できても、私にとっては出版と流通業界は専門外なので、外野からしかモノが言えないから、ビジネスの変化は強く言えない。
まず日本の出版の特殊性とか異常さを今後どうすべきかという方向性を共有しなければ、電子書籍をどう取り扱うかの戦略は出てこない。つまり再販問題とか書店との付き合い方とかいうベタな問題から、図書館との共存のような社会的な課題もある。これらを解決する道具として電子書籍戦略を考えることはできるはずだ。日本は自転車操業的に年間7万もの新刊書が発行されて、事実上流通や書店ではさばききれない。そういった多点化は電子書籍に任せて、かっちりした本作りに焦点を当てると共に、社会的には図書館・図書室を充実させて、万という図書館・図書室がそれぞれ予算を持てば書籍のビジネスは成り立つようになる。これが欧米型といえる。人の集うところにキュレータが居て、その場にふさわしい「良質」の図書室を作る運動を展開すれば、紙の本もまだ出るはずである。
本の売れ筋は新刊なので、電子書籍をビジネスにするならば新刊と同時に電子版も出さなければならないが、書店に対する遠慮があってそれができないと、結局は日本の電子書籍はBookOffと競争しなければならなくなって、いつまでたっても儲からない、ブレイクしない、ということを何度も書いたり言っているが、こうも出版界が自己変革できないと、新参の電子出版社にチャンスを与えることになるだろう。そのところには海外の黒船組も待ち構えている。むしろ今日本に参入して軋轢を起こすよりも、日本型電子書籍が自滅するのを待っているのかもしれない。
こういった日本の出版の諸事情を知らない人と、知っていてもこのことには触れたくない人は、記事『電子出版とDTPは共存できるか』に書いた従来のDTP型の後ろ向きの技術や制作フローを考えてしまうが、これは全く発展性がなく、「安く制作しろ」といわれるだけのものになってしまう。今後の電子出版にDTP型を出発点にしてしまうと、クラウド型モデルは情報伝達や情報流通を根本から変えてしまうものであるという技術変化の影響を過小評価してしまいがちだ。その一方で読書端末やスマホ・タブレットで読書が変わることを過剰に期待する傾向もある。しかしいくら新しい端末やガジェットを作っても、それがきっかけで電子書籍がブレイクしなかったことはここ十数年に証明されている。一方BookOffはブレイクした。技術の影響も読者のふるまいも現実を直視しないものは空論になる例が日本の電子書籍であったともいえる。
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