投稿日: Nov 12, 2012 1:56:59 AM
奥が深いと思う方へ
EBook2.0フォーラムでDigital Book Worldの「ブック・マーケティング十戒」という記事を紹介している。その第9に「汝の本を偶像とすることを慎め。より大なるを目指し、オーディオ、ビデオ、講演、指導、映画脚本など派生商品を考えよ。」がある。モーゼの十戒に倣っていると思われるので、この偶像とは何かを考える鍵は第1の「Tell people about the results your books create, not just the topics you write about.」にあるだろう。これは本に書かれたことではなくて、本がもたらす成果を人に伝えよ、というもので、「神はひとつ」に即して意訳して言い換えると「クリエイトのコンセプトはフォーマットによらずにひとつである」だろう。本はそのコンセプトを伝えるためにあるのに、本そのものに価値があると考えると、それは本の偶像化である。
本は単に紙を束ねたものを指すのではなく、暗黙のルールをたくさん作ってきた。それはページのサイズ、ページ数、組版などで、文庫・新書・何判というようなフォーマットにコンテンツを押し込むのが本つくりであった。それを今の電子書籍は踏襲しようとしている。これは善意に考えれば、紙の出版が培ったきた読み易さを引き継ぐということであろうが、その範囲を超えて「本はこうでなければならない」と言い出すと本の偶像化である。
だからクリエータの立場に立つならば、本の様式にこだわることに腐心するよりも、マルチメディア展開を考えた方がよい場合もあることをブックマーケティング十戒は言っているのだろう。電子書籍は電子ペーパーのような紙モデルからスタートしたというこもあって本の偶像化に陥りやすいという指摘の意味もあるだろう。偶像化はコンテンツビジネスとしては発展の可能性がなくなる道である。それは出版デジタル機構のように経営的には成り立ちにくい道であるが、過去の本のアーカイブという意味では、とっとと偶像化を進めていいと思う。
もう一方でeBookには絵本・Mookや雑誌というマルチメディアが必須な分野があり、これらが安価なカラータブレットの普及で、やっと本気で取り組むべきところにきている。iPadの登場時期から「こんな面白いことができる」という技術デモが行われたのに、そういったコンテンツ制作を続けていくにはマルチメディア環境はまだ整っていないのである。それは電子書籍の流通モデルが本の偶像化の上に成り立っていたので、Webで発展した表現技術やマッシュアップやストリーミングなどが思うように使えずに、Webコンテンツを作っていた人がマルチメディアeBookには参入できにくい面があるからでもある。
HTML5の新しい可能性に取り組むと同時に、Webで有効であった技術もeBookに飲み込んでいくようになるには、まだ3-5年というレンジではできないように思える。
Mediverse+EBook2.0Forum 11月の研究会