投稿日: Apr 30, 2012 1:21:32 AM
音楽産業の解体の先に何があるかと思う方へ
アメリカの南北戦争から150年経った。南北戦争はアメリカにおける奴隷解放の始まりであり、また黒人音楽を中心としたアメリカ黒人文化の始まりである。奴隷に対しては教育は施されないのだが、キリスト教の賛美歌などを教える人たちがいて、読み書きできない黒人もスピリチュアル・ゴスペルを経てリテラシーが形成されていった。それと同時に楽器や音楽を知った彼らは自分たちの日常の娯楽としても独自のものを発達させていった。20世紀始めには初期のjazzなどに白人が着目しだすが、黒人音楽全体を把握できたのはおそらく1960年代で、奴隷解放から100年ほど経ってからだった。つまりアメリカ黒人音楽は放置されていたがために、音楽産業がマーケティングをして作り出すという作為部分が少なく、自然発生的な発展をすることができた。今日ではメジャーな音楽産業の影にあった音楽がどういうものであったか明らかになりつつある。
下は黒人音楽の発展と分類をザクッと図にしたものだが、今日でもこれらはいろいろある中で、大まかには3層に分かれることを表している。それは①ストレートな感情表現と、②芸人的なエンタメと、③普遍的な音楽様式化したものである。これはそのまま誰がどこで行なっているかの差でもある。①の代表であるゴスペルは神への賛美とか服従を表現する宗教的な音楽であり、教会関連の施設や行事で歌われる。ゴスペルが希望を歌うのに対して絶望を歌うのがブルースで、両者は相反するようではあるが表裏一体の関係で、同じ人が金土曜日はブルースを、日曜日はゴスペルを歌うという繰り返しの生活をしている。②の世俗テーマの部分はダンス音楽が大きな比重を占め、それはブルースもジャズもロックもある。古いロックはR&Bの中に含まれる。
黒人音楽が白人にも知られるようになると、模倣する人が出てきて音楽様式として認識されるようになる。その確立が早かったのがジャズで、真っ先に世界的に広まった。アメリカで黒人比率は15%もないが、白人のカントリー音楽を凌ぐほどソウルのレコードは出るようになった。chittlinsは日本人にはなじみは少ないが、黒人オンリーのクラブではよくされた軽いロックのようなファンクのようなものの総称である。ブルースの延長でありながらレゲエのような気楽さのあるものといってもいいかもしれない。アメリカでは時々ヒット曲になることもあったが、日本でヒットしたことは殆ど無い。
今YouTubeではこれらすべてにわたって、いままでレコード化されていなかった現地の音楽を見ることができる。かつては日本に版権契約ができたレコードだけが日本で聞けるとか買えるという大きな制約があったので、音楽ライターもレコード会社の資料や音楽業界紙を頼りに音楽の記事を書いていた。それらが間違っているとは言わないが、現地に行かなければ分からない部分は書くことができなかった点が多い。今は日本人もアメリカの各地に住んでいてBlogを書いたりしているので、紙の情報では伝わらなかった部分を見聞きできて、音楽の認識が変わるのではないかと思う。
それは音楽と音楽産業とは別であるということである。音楽産業は音楽に関連した金の流れの一部を表しているだけで、どこでどのように音楽が発生し伝播し継承されているかを捉えることはできないからである。つまりネットの時代は音楽そのものをもう一度見直すことができるし、その結果として金の流れとは関係の無い伝播・継承の機会も増えていくことになるだろう。