投稿日: Mar 26, 2012 12:59:25 AM
Amazonが他と何が違うかと思う方へ
EBook2.0 Forumの鎌田博樹氏と共に、セミナー『出版を最先端ビジネスにしたAmazon 』を3月28日に行なう準備をしているが、Amazonの詳細は鎌田氏がWatchしているのでお任せして、ざっとAmazonのビジネスの変化を俯瞰してみた。Amazonに限らずGoogleでもeBayでも、従来の起業と決定的に異なる点は、実社会を数理モデルで捉え、人はアルゴリズムを工夫しながらビジネスの目標を登頂していくようなやり方だ。つまり商品点数でもドキュメント数でも地図に載る場所でも、数え切れないほどあって変化しつつも、それらは有限であり、そこの場でビジネスとかサービスをする際には、将棋やチェスの打つ手と同じように最適解が計算できるという考えだ。彼らが巨大データセンタを運営しているのは、単に扱うい情報量が多いというだけではなく、いままでのコンピュータ応用ではやってこなかったことにも挑戦するためであろうと考える。これはまた別の機会に述べる。
つまり漠然とした目標に向かってビジネスをするのではなく、解明できるはずのものを対象にしている点ではリアリズムといえる。そこが初期において利益が出ていなくても投資してもらえている理由ではないかと思う。もしビジネスは成功しなくても、そこで開発したことは無に帰するのではなく、考え方なりデータなりツールなり役立つものが残るようなやりかただと思う。ではどういった足跡があったのか?
独自のフルフィルメント開発
Amazongがオンラインブックストアを始めた頃は、近くに本屋が無い人にサービスしようというコンセプトがあったようだが、実際の利用者は都市部が多く、仕事が終わると本屋も終わっているとかの理由でよく利用された。通販の強みとして在庫最小でフルフィルメントに手数がかからない独自な開発をすることと、仕入れの拡大でスケールメリットによる安値で伸びたと思う。これはCD/DVDにもそのまま当てはまった。
item間相関
本もCD/DVDも商品分類がしっかりしていてメタデータも基盤がある程度あるので、お勧めとかアフィリエイト、Webサービスをからめたネット上の販促などのモデルを作った。商品のレビューを入れたり見栄えのしない商品案内は、ひょっとするとSEOの一環で、GoogleがPAGEランクで広告を排除するのをかいくぐったのではないかと思う。AmazonはSEOではトップの座をとった。これは一般のECが購入者の個人情報を蓄積する形のCRMをしがちなのに対して、利用者は匿名のまま商品間の相関を中心にした統計を充実させたことが、結果的には検索エンジンとの親和性を高めたと思う。こういった中で、書籍とは人間の活動全般にわたってあるもので、世界の索引でもある。情報のHUBとしては本から出発するというのは、他のECよりもアドバンテージが築けたひとつの理由であると思う。
a-z 串刺し
商品間の相関がとらえられれば、ゴルフの本を買う人にゴルフ用品を勧めるような方向に発展し、2000年頃から今のロゴになって、商品はaからzまで扱う(何でもある)コンセプトができた。フルフィルメントの作業効率が高いとか、古本のように他からの仕入れも売るような形で、非常に決めの細かい商品を扱うようになり、有名商品のオプションやアクセサリなども「何でもある」調達サイトを実現した。硫化水素ガス自殺に使う用品が芋蔓式にお勧め商品として出てきて問題になったこともあったほど、商品間の相関は捉えられるようになった。一方で他との関連が薄い離れ小島のような商品は、当然ながらあまり扱われない。
出版プラットフォーム
2000年を過ぎてRocket eBookも沈没し、eBook崩壊の時代があったが、逆にAmazonはブックオンデマンドの会社やeBook オーサリングの会社を買収して子会社にしていった。これで自費出版とか出版社以外のコンテンツによるビジネスも細々としていた。これはAmazonがECの世界でa-zを扱うようになって、改めて出版の世界を見直すと、まだ商品が出てくるはずの穴が多く見つかったからだろう。つまり紙の本は出版社が絶版にしてしまうとAmazonとしてはビジネス機会が減ってしまう。だから世に求めら得るコンテンツを出版できるプラットフォームを用意しようとしたのだと思われる。
通信と融合した出版
電子ファイルをブックオンデマンドにして売るよりも電子ファイルのままeBookで売る考えは、Mobipocketを子会社にした2005時点からあったはずだし、その時点では電子ペーパーSonyReaderは日本でLIBRIé(リブリエ)として出ていた。SONYはメモリスティックにこだわっていたのに対して、Kindleは3G回線をOEMで使うことで、いつでも無限ともいえるコンテンツにアクセスできる通信と融合した出版・読書を実現した。
Kindle利用の進化
そもそも出版物は多様なので、一挙にあらゆる分野に進出することはできない。Kindleのアメリカでの普及の推移をみると、だいたい次のような進み方になっていると思う。
初期 :
教科書・技術書分野 紙の書籍では厚すぎて持ち運びが不便 利用が一過性なので個人で所有しようと思わない。
拡充期 :
娯楽のペーパーバック分野 ベストセラーなど大量販売で読み捨て 移動中に読むだけなど個人所有指向がない。
成熟期 :
これからであるが、紙の本が何百ページをひとまとめにパッケージ化していたのに対して、著者ごととか章ごとなどに区切った短編をeBookにする動きがある。これは今読みたいものを、即座に手に入れて、すぐに読める、というeBookならではのコンセプトにピッタリで、出版のある部分は著者が駆動する形でこういった方向に再編される可能性がある。
Amazonはitem間相関のノウハウや出版プラットフォームという強い武器をもって、単なる書籍流通以上のものになろうとしている。
関連情報 セミナー『出版を最先端ビジネスにしたAmazon 』 3月28日(水)