投稿日: Oct 07, 2015 12:23:4 AM
最近、符号化された文字の関連を図示する、上のようなアプリが発表されて、膨れ上がった漢字集合の相互の関係が分かりやすくなった。具体的に何をするかというと、異体字を串刺しにして表示するものだ。日常使用される字体に対する正字(旧字)が知りたくなったり、少し形が異なる文字同士が同じ意味かどうかを知るのに使える。とはいっても手書きの文字は使えるわけは無く、文字コードの規格になっているものに限られる。つまり誤字に関してはあまり含まれないので、戸籍など誤字も扱う世界では解決にはないだろうが、画期的なツールとはいえるかもしれない。
こういったマップが出来るまでに30年かかった。1980年代の半ばだったと思うが、記事『緊デジ迷走に関して』に書いた異体字研究と文字拡張が事の起こりである。当時ニューメディアが話題の時代で業界では電子出版の夢が語られだした。世の中は日本語ワープロが使われ出し、漢字は第1水準と第2水準しかなく、これではモノが書けないと著者は言い出した。日本の行政市の漢字もすべては網羅していなかった。そこでいろんな漢字の追加希望が起こるのだが、当時は漢字の管理の仕方が曖昧だった。文部省・法務省・通産省は協調せずにめいめい勝手に漢字行政をしていた。
そこで大日本印刷のC&G事業部とかいう名前の組織の開発室長だった高橋昇三氏が、日本印刷産業連合会に異体字の串刺しのできる方法を考えて、合理的な文字種の追加をJISに提案するようにいった。彼は国立国文学研究資料館で漢字シソーラスの研究をしていた田嶋一夫氏をひっぱってきて、大日本印刷・凸版印刷・共同印刷のもっている外字、写研・モリサワ・モトヤ・イワタの持っている外字を出させて、それを整理する事業を通産省からの補助金でやりだした。その作業には私も関ったのだが、田嶋一夫氏は温厚な方であるのに対して、高橋昇三氏はコワい感じのする人でもあって、補助金事業にありがちな適当にちゃっちゃとやるようなやり方は許さなかった。
そこで単純に異体字を並べて選択するのではなく、作業をしながらではあるが、異体字とは何か、判断するクライテリア、などについて、延べで3~4年は議論し続けていたと思う。その間、通信社や新聞社での異体字の扱い、国会図書館、株券、住民票、などの実態調査も随分行った。補助金事業は単年度で報告書を出すが国内では何の反応もなかった。しかしISO10646のCJKのワーキングを国際的に行うようになった時に、中国も日本の異体字の管理の仕方に合意をしてくれて、まとめすくなった。その時に何年かの作業や議論はやっておいてよかったとつくづく思ったものであったし、そうさせてくれた高橋昇三氏の妥協のなさには頭の下がる思いであった。