投稿日: Jun 14, 2012 12:47:48 AM
レコードが音楽に磨きをかけた
以前にeBayでアメリカの南北戦争当時の新聞を買ったことがある。それは北軍が南下してメキシコ湾沿いのルイジアナ・バトンルージュを解放した際に、地元の元黒人奴隷たちを招いて宴を催した時の絵が描かれていたからだ。
この絵の音楽や踊りが何であるかは判別できないのだが、Wikipediaではバザードロープという踊りとみなしている記述があった。バザードロープに関してはどんな踊りであったのかYouTubeで爺さんが再現している古い映像が残っている。また1960年代の「ダンス天国」時代にいろいろ発案されていたダンスにもその名残のものがあった。一言で言うと「おっかなびっくり」「よせつ戻りつ」踊り(ちょっとハナイチモンメに似ている)とでもいうもので、1960年代の公民権運動の時代においてはストのピケットラインを現した曲があった。だいたい黒人の踊りは日常生活のしぐさから来ているものが多く、「背中を掻いて」とか「犬の散歩」などは大ヒットしたし、今も歌い継がれている。
記事『ギターを持った黒人(1)』で書いたように、1920年くらいまでは楽器といえばバイオリンかバンジョーで、それにバスタブベースがつくくらいだった。公民権時代1965年のChambers BrothersのTV出演 でもこの種のベースが出てくる。 レコードが売られる時代になってギターが登場し、特にドブロでスライドというのがBluesのひとつの特徴にもなった。私の推測ではギターが当時のレコーディングの技術レベルに合っていたのではないかと考える。バイオリンの微妙なところは録音し難く、またバンジョーなどはキンキンカンカンし過ぎたのではないか。どうも弦楽器の演奏者はバイオリンもギターもバンジョーも何でもやっていたようで、これは黒人が楽器を所有するのではなく、体ひとつで行ってそこにある楽器を使うという傾向があることからもわかる。
これらの弦楽器はカントリー&ウェスタンの定番でもあり、特にバンジョーとバイオリンは屋外で用いられたが、ギターは屋外では迫力がなく、逆に録音する室内では非常によく響いた。基本的に室内向けの楽器だからである。1920年代からの黒人Bluesのレコードは、レコード会社が考えた以上によく売れた。だいたい黒人向けは半額の50セントであったし、当時はラジオが高価で黒人には買えず、ゼンマイ蓄音機を買うのがやっとだったので、レコードが貴重な娯楽だったのである。黒人ミュージシャンも録音の仕事にありつくと10ドルもらえる、位のノリで非常に多くの録音がされて、今日でも戦前のものはかなり整理されてCDとして出ている。
しかし実際にレコードになったのは、戦前は白人が主要レコード会社の経営をしていたために、白人からみて音楽的な価値が高いと思われたものであって、録音されなかった種類の黒人音楽は相当あった。だからギターを持った黒人Bluesの発達というのは、レコードというメディアの発達と共にあったと思われるのである。冒頭のバザードロープのようなものは民間伝承として残るのだが、それらも民俗音楽研究家がいくらか残してくれている。それらが戦後に黒人やマイノリティのレコード会社がいっぱい登場することで世に送り出されたことが、ロックのきっかけとなった。
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