投稿日: Jan 31, 2012 1:35:56 AM
出版は誰でもできる時代だと思う方へ
世界最大のクリエータイベントであるコミケットについては、記事『コミケが示すボランティア経済』で、元々が同人誌サークルの学園祭のようなものが巨大化したもので、無給のボランティアが組織されて働いていて、果たして儲かっている人がどれだけ居るのかよくわからないことを書いた。もしこれが商業イベントであったなら何百億の商談成立になるのだろうが、アマチュアの即売会なので動くお金は桁がひとつ小さいのだろう。しかしそういった手弁当のイベントだから全国的に若者を動員するものになったともいえる。幸か不幸か知財権的にグレイな部分を抱えているために、商業的なメディア会社は参加をためらう面もあった。プロなら取り締まらなければならない立場なのに、このイベントに加担するわけにはいかないと考えた人は多いだろう。
しかしコミケ出身でプロになったクリエータも続々いるので、今まで背を向けていた出版界とアマチュアの間をとりもつ考えの人も居る。むしろ自立したクリエータは出版活動と同時にファンサービスの両立のためにコミケとの接点も持ち続けている。本人も後輩たちの活動に興味をもっているし、出版社をヌキにして直接人間同士の良い先輩後輩関係ができることは、後輩からすると先輩への尊敬にもなり、知財権に関する理解も変化していくことになろう。もともと著作権というのは利権を確保するためにあるのではなく、創作者の人格権なのだから、企業が入り込んで規制するほうが主旨とはずれたものになってしまう。
このように考えるとコミケはデジタルメディアではないものの、一種のソーシャルメディアのような役割を果たしているといえる。その主体は似たテーマを扱うサークル同士が作品を見せ合うという目的で小部数の冊子を印刷して即売し、実際には出展サークル数よりも何十倍も多い一般参加者も居て、40%のサークルはかかった印刷代をペイできるか、それ以上の売り上げを上げている。しかし大きな売り上げを達成するところはわずかで、トレードショウのような商業イベントにはなり得ない。むしろクリエーターにとっては創作傾向や人気というトレンドが得られることが参加をする意義になって、また次の創作にかきたてられていくのだろう。
ただコミケにおける創作活動とは、商業的に成功したキャラクターを借用したパロディから出発したように、完全オリジナルではないものが多い。徐々にはオリジナルも出てきて、それがアマチュアに影響力を与えるようにもなってはいるが、そこでも影響を受けたクリエータが派生作品を作るという、今までと同じような循環がみられる。要するにものすごく似ているものがいっぱいあるわけで、そういった世界に浸っているのが楽しい人たちのイベントである。
ただこういう模倣を通じて技量を身につけて、その後次第にオリジナリティを発揮するというのは、コミケに限らずどんな世界にもあることである。コミケはそれが大規模すぎて目立つだけだ。そして技量が身につけばキャラクタの借用や既存ストーリーの模倣をする必要はなくなり、個人で足りない要素はお互いに協力し合ってコラボする形で世に新たなものを出していけるし、注文を受けて制作するというようなことも行われる。つまりコミケの模倣はクリエーションの育成の場という意味があるし、そこにすでにできあがりつつあるクリエータ間の人間関係というのは、新しい出版の機会を暗示している。
コミケの運営そのものがボランティアで行われているのなら、出版活動だってボランティアベースで可能になるだろう、ということである。これは先にインディーズのような音楽活動でも見られることで、意外に出版だけが出遅れているのかもしれない。海外ではePubでの出版をするNPOのようなものが活動を始めているように、特定の目的のためにネットでボランティアが編集・翻訳・プロモーションをするようなことが、ソーシャルメディアと一体になって進む可能性がある。