投稿日: May 06, 2012 11:52:5 PM
垂直モデルの限界を感じる方へ
日本は1990年初頭にバブルが弾けて、失われた10年とかいわれていたが、今やもう失われた20年になった。大手家電業の大赤字に対して、どのような挽回があるのか見えていない。少なくともTVという大型商品が伸びることもないし後継の商品が控えているわけでもない。コンテンツとデバイスは持ちつ持たれつの関係だから、コンテンツを扱うTV業界も同じである。しかも紙媒体の新聞・出版も同様の推移をしている。共通しているのは技術革新による新しいメディアの登場の影響を受けていると一般には考えやすい。確かにこれは世界共通のテーマで時代の流れのようなものであるが、日本にはそれ以上に深刻な問題が待っている。
それは人口動態の変化で、今は団塊の世代とその子供世代をピークに成人の人口が多く、可処分所得の総和も相当大きいが、今後を考えると今の40歳前をピークにその後は人口が急にしぼんでいくので、成人に達する人数がどんどん減ることが起こるからである。団塊の高齢者の消費対象は限定でありしかも年々しぼむことは確実であり、それを補うだけの成人は出てこず、大雑把にいえば成人人口は半減する。だから若くて情報にアクティブな人を対象にしたマスメディアとそれに関連した広告などはこの人口動態の影響をモロに受けることになるだろう。
つまり国内だけを対象にしたマスメディアは市場が半分になっても成り立つように転換をしなければ生き残れないはずである。それはデジタルデバイスに対応すれば何とかなるという問題ではなく、経営や商品化の視点を変えることが無ければ、今までのマス対象のモデルをスケールダウンして消耗するだけのことになる。eBookは印刷代がかからないからコストやリスクの面で有利であるとはいっても、現状でeBookの売れる部数は紙の本とは桁違いに少ないので、いくらeBookを刊行してもマスの減った分の埋め合わせにはならない。そのうちeBookももっと売れるようになるのだろうが、その時の売れ筋が紙の本とは異なっていて、主役は入れ替わっているかもしれない。
NHKでも話題のネット動画を編集して放映するものがあるが、それを見ていると、「世界で何十万人が見ている」といったような、多くの人に受ける動画を拾っていることが多い。しかしそれではネットのコンテンツもマスメディアの視点でみているだけで、そのような採り上げ方でネットの時代のビジネスを考えようとすると、数の上ではネットユーザを対象にしても大した事はないという判断になりがちだ。しかしもうかつてのような成人のマスは有り得ないので、この姿勢では新たな情報サービスは発掘し難い。
YouTubeそのものの考え方では、殆どアクセスされることのない市井の情報でも検索可能にして、必要な人に届ける仕組みを提供するものなので、それが100万回見られるなら結構なことだが、たとえ100回でも意味があることに使われれば、YouTubeの使命は達せられるし、そのような低視聴も頻繁に行なわれるロングテールの時代を念頭に置いている。こういった埋もれたコンテンツから再編集されて、マス向けのコンテンツも向上するという、ロングテールとマスの関係というのも次第に明らかになりつつある。
これまでのマスメディアは取材した情報の何パーセントもパブリッシュしないで、お蔵入りになる原稿が大量にあったが、マスメディアもこういったロングテール向けに情報を提供することも起こる。今までのマスメディアは取材から配信まで全部自分で行なう垂直モデルであるがためにコストが大幅にかかって、経営を維持するには莫大な読者数を必要としていた。こういった構造を変えて低コスト体質にしつつ、オープンな情報の授受をするように基盤を変えなければ新しいことは始まらないと思う。もしマスメディアがしなければHuffPostのようなものができるかもしれない。こういったオープンな情報の中から編集や配信サービスを工夫してコンテンツの新たな用途を見出す努力が必要である。