投稿日: Dec 11, 2014 12:25:11 AM
印刷関係で人の集まる話題はデジタル印刷機のようで、政治における英雄待望のように、何か凄い満塁逆転ホームランのような印刷機の登場を待ちわびる人も居るのかもしれないが、従来のオフセット印刷機の紙送り機構をそのまま使った重厚長大なデジタル印刷機にどの程度の活躍の道が残されているのか、疑問に思うことがよくある。
これはデジタル印刷に疑問を持っているのではなく、記事『ペーパーレスに向けて』で病院の印刷物がすべて小型プリンタになったように、分散印刷の普及がデジタルとネットで進むのは必然であるが、重厚長大印刷機の出番は減っていくと思うからだ。一部のオフセット印刷機はデジタル印刷機に置き換わるのだろうが、デジタル印刷機がオフセット印刷機を超えるほど増えるかどうかは疑問だということだ。
かつて印刷関係従事者30万人を対象に数千部の月刊誌を出していた時にいろいろマーケティングをしてみた。30万人で数千部というのは50人に1人が読んでいる計算になる。それ以外にどのような需要が見込めるのかということだが、企業内の印刷部門というのが当時はかなりあった。それ以外には、職業訓練校とか、刑務所の更生事業として活字・写植・タイプ・印刷などがあり、また身障者のコロニー協会などでも職業訓練の需要があった。
これらの人数は必ずしも多いものではないが、印刷関連業務は雇用という意味でも社会といろいろなつながりを持っていることがわかった。これは後にDTPの教育の大きなヒントになった。印刷業界内だけで職業訓練していても不十分で、もっと裾野を広げてリクルートや教育をした方がよいということである。
また印刷需要が伸びるか減るかということも、この裾野の動きと連動していて、産業が活性化しだすと、裾野は敏感に反応する。つまり裾野が反応しないうちは産業は活性化しないといってもいいほど、何も詳しいことは知らないはずの周辺の人とか素人たちが近未来を予測している。
これは印刷物自体が人々にとって身近なものであるので、それが変わる可能性を肌身で感じたものだと考えられる。こういうことはメディア産業全般に通じるようである。出版が上り調子の頃はエディタスクールに若者が集まってきた。しかし電子書籍となるとコンテンツ作りを身に着けたいという編集志望が増えているようには思えないことから、あまり期待感がないのではないかと思える。素人の直感は馬鹿にはできない。
デジタル印刷にしても、重厚長大な機械が活躍するのなら、その前にもっと簡易なデジタル印刷が隆盛になるはずだし、市場の期待も垣間見られるはずではないかと思える。お店でのPOP作りなどすでにパソコングラフィックスには広い裾野があり、プリンタもゆきわたっている。こういったベースがあるのにデジタル印刷が勢いをつけたとは思えないで、むしろ印刷通販などでの安いオフセット印刷の方がビジネスとしては伸びている。
デジタル印刷が見栄えでは従来印刷並になったとしても、また単価で従来印刷よりも安くなったとしても、堅牢さという点では劣っていて、水にぬれるとダメなインクジェットとか、熱と圧力に弱いトナーとか、用途が限定されていしまうからだ。
それでもデジタル印刷は分散印刷の強みを次第に発揮するようになると思うが…
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