投稿日: Feb 03, 2011 10:48:49 PM
本つくり経営の限界を感じる方へ
出版社を挟む著者と読者とのギャップが拡大しているのは、出版社が自己都合で本を作っているからで、これからは音楽産業のようにステークホルダの特徴を最大限活かすようにプロデュースすることが役割になるのではないか、ということを記事『作品-出版-読者』で書いた。もし本を出し続けたいのであれば、本の流通機構を頼るのではなく、もっと確実な土台に経営を据えなければならない。出版だけでなくメディアは自立したビジネスにはなり難いことは、運転免許と自動車があればメシが喰えるわけではないことと似ている。トラックを運転する運送業がさまざまなサービス開発をしたようなことが、「編集」を核にいろんなビジネス開発が行えるのかということで、経営者の交代がなければ廃業するという道になりそうだ。
今の出版には本しかやらない考えの人が多いだろう。出版社は今まで著者を発掘し、育て、著者の書いたものを商品として仕上げをしていたことから、主導的な役割を果たしていたことは確かだが、この方式でたくさんの本を出し続けると、自分の著述の版元として出版社の名義がほしい名刺代わりの出版物や、別のところで給料をもらいながら書いているサイドビジネス著者が増えていったことは、新書の増加からもみてとれる。この出版社優位の構造は結果的には著者にボランティア的であることを期待するようになったと思う。しかしこのような構造では本当に良いものを後世に残そうということにはならない。
出版を今のビジネスとして考えるならば「後世」はおいておいたとしても、上記の状況からより良いものを引き出すメカニズムを考えるべきである。今は本を売るためにソーシャルメディアを使う考えもあるが、それは本末転倒であって、特定の分野にニッチな情報の取引の場を作るのにソーシャルメディアに役立つのだろう。平たく言うと従来は業界専門紙誌があって、出版という観点でそのようなことをしていた。それに対して日経マグロウヒル・日経BPはそれらを束ねたような専門誌ビジネスを始めた。情報源や執筆者という点では弱小出版が日経BPに勝つのは難しい。だから弱小出版はもっと読者に近づいて、運送業が宅配便や引越屋をしたように、読者が必要とするサービスを密着して行う道があった。具体的には主に広告や販促の手伝いを
している。
しかしこういった特定分野が必要とする情報サービスをする余地は無限にあるのに、従来はあまりにも出版と直接関連したことしかしてこなかった。どこかが新製品を出すとすると、カタログ・パンフという印刷物、広告やリリースやパブリシティの制作、ショウ・内覧会の企画、プロモビデオなどが関連してあったが、今では営業が持ち歩くパワーポイント、メルマガ、YouTube、ソーシャルメディアなど、企業が必要とするものは増えていく。これらを後追いで儲からない仕事として嫌々行っているところは多い。こういったビジネスから脱却するには、顧客企業と消費者のコミュニケーション全体を捕らえなおし、その中で出版・編集が果たしてきた役割、まだ手をつけていない役割、また顧客側が何とか乗り越えなければならない課題などを見直すことになる。
つまりニッチ分野でマルチメディア展開をするというだけでは、そこに根ざすことはできない。これは企業だけでなく、いわゆるソーシャルといわれるようなバーチャルな分野でも同じだが、メディアがサービスに結びつくようなベクトルで「本つくり」から脱皮するためにも、記事『見たい、知りたい要求は永遠』のBigPictureを考えることは必要だと思う。