投稿日: Jul 10, 2011 10:31:19 PM
サプライチェーンの崩壊を感じる方へ
東京ビッグサイトで7/7-7/9に行われた国際電子出版EXPOでは、eBookという新しい表現媒体に向けてのさまざまな取り組みが紹介された点では、従来とは立ち位置の変わった展示会になったが、出版ビジネスという点ではどのような変革が必要であるのかというのも同時に考えねばならない。その第一は今回まだ登場していないAmazonのようなサービスがグローバル化した場合に出版社の役割や金の回りがどうなるのか、第二はAmazonが来なくても進行する中抜き時代への対応である。日本では権利者、出版社、制作会社、印刷会社がそれぞれ従来の売上げ配分を同じように今後も確保するために、Amazonに代わるものを独自に作って、従来のステークホルダの中から取次ぎ・書店を減らした分でやりくりしようとしている。
しかし国際電子出版EXPOでこういった攘夷派の進展はみられなかったと思う。今後も自己変革を後回しにした企業同士のもたれあいで解決することはないだろう。なぜなら合理的な未来図を描いたとしても、お互い会社の都合が理想を蝕んでいくからだ。しまいに未来図ではなくなって、部外者に利益は渡したくないという姑息な取り決めになる場合がある。電子書籍の統一フォーマットとか中間フォーマット、あるいは最近少し話題の超本棚・オープン本棚でも、既存ビジネスに照準を合わせた下位互換の標準つくりは、そのような方向に向かう危険性を孕んでいるし、ベンチャー企業が何のしがらみもなく考えるフルスクラッチの新しい設計には対抗できなくなることがある。つまり出展者の多くを占める制作サービス会社のような立場から既存のシステムをどう弄り回しても負ける可能性が大である。
出版印刷より先にコンピュータ業界ではマシンそのものの価格が劇的に安くなるのと普及の飽和によって、ハードの売り上げに依存するのではなくソフト化・サービス化して生き延びようとしてきたが、これは他の装置製造業にも通じることである。つまり一般的にいえば、
機械を作れば売れる時代は、「使い方は利用者が考えなさい」
機械がそれほど売れなくなると、ビジネスモデル・新アイディアをつけて売る
機械の更新が必要なくなると、仕事をつけるから買ってください
というような提案営業へと変遷をしてきた。ところが仕事自体が減っている印刷ではこのやり方では売れず、事実国内での印刷機導入は極端に減ってしまった。DTPソフトなどは電子書籍やスマホという新ニーズに対応することでまだ売れているものの、コンピュータ機器は近年まではサーバ製品が企業に入っていったが、電子書籍やスマホ対応ではクラウドでまかなえるようになる。要するに装置側からの提案でソフト化・サービス化のビジネスに入ることは従来のようにはできなくなっている。
つまり出版業が印刷業の支えで営み、印刷業は装置製造業の支えで営んできたという図式は成り立たなくなったのがeBookであり、そのようなしがらみがないところが参入できる時代である。だから既存ステークホルダの協業を超えたタイアップが必要であろう。たとえば今回の国際電子出版EXPOでは少額課金が可能なPaypalが出展していたが、今の生活者がECに慣れ親しんでいるところに行ってeBookのビジネスをするような考えをすべきだ。現在のeBook攘夷派の最大の弱点はそこにあり、コンピュータリテラシ、ネットリテラシ、メディアリテラシが不足なので、今日のアクティブな生活者視点に立って、しかもAmazonよりも便利というeBookビジネス開発が課題であるはずだ。
関連セミナー eBookに相応しい、アイデア、企画、コンテンツ、ビジネス 2011年7月22日(金)