投稿日: Oct 10, 2012 1:7:28 AM
定番商品を作りたい方へ
アメリカでの出版事情を大原ケイさんにお聞きした10月3日の研究会の記事は『権利関係明確化は損か得か』にあるが、その中で出版のプロモーションには日本よりもずっと前から始まり、出版の際には書評などの素材は出来上がっているという話があった。そのために出版社が年間スケジュールでちゃんとプロモーションするものは本番の印刷の前に数百部を印刷製本して配るという。それで書評などを書いてもらう。だからあらかじめ評価のされていることを確認して、その評価と齟齬のないように広告宣伝をするのだろう。一方日本では完成した本が突然出版社から流通に送られてくるという。
アメリカのこのようなプロモーションのやり方はおそらく音楽も映画も似たようなものになっているだろう。かつて45回転盤レコードで新譜を発表していた時代は、やはり発売前に「DJコピー」といわれるようなサンプル盤を音楽ジャーナリズム、ラジオ局やジュークボックス業者に配っていて、それも数百部あった。こういったサンプル版は市販はされないが、在庫の廃棄処分と混じって中古市場に回ることがある。そして中古市場というのは廃棄処分はなく、人気がないとどんどん値段が下がるだけで、作品が消されてしまうことはない。音楽の場合も流行の山谷があるので、1世代2世代前のものが中古市場から再評価されて、再発売になるようなこともある。このような山谷を越えたものがスタンダード曲として定着していく。
書籍においても古本でずっと需要があるものがあるのだが、それが再発売になる機会は少ないかもしれない。出版点数が異常に多い日本では出版された9割はそれっきりなのかもしれないが、「出版マーケティングをみなおす(1)復刊ドットコム」 のような再発売の仕組みもできてきた。こういったことも従来の出版のマーケティングの盲点であったと思う。つまり定番商品を着実に増やしていく仕組みは、書店の棚の容積に販売が制約される時代には困難があったのだろうが、人々が日常ネットを使って検索やリンクを容易に辿れる時代においては重要になっていくだろう。
少し論点は変わるが、フェアユースの概念も広げていく必要がある。冒頭のサンプルを数百配布することが作品の認知に必要であるとすると、継続的ではなくある期間において一定数以下のコピー配布というのも自由度をもたせるルールが可能ではないか。少量コピーでも日常的に行われると困るのであろうが、先の1世代2世代忘れられたようなものの場合は再度複製の部分配布・サンプル配布が可能になるのがよい。それでないと死後50年間のコピー禁止では多くの作品は忘れられてしまう。これは紙に印刷しなくても電子書籍など経費のかからない方法がとれるようになったこともプラスである。デジタルコンテンツの配布の容易さがプロモーションに結びついていかないと、好循環で伸びることにはならないだろう。
電子出版再構築研究会 名称:オープン・パブリッシング・フォーラム Ebook2.0 Forumと共同開催
10月17日(水)16:00-18:00 新しい出版マーケティングの時代