投稿日: Jun 29, 2010 11:7:37 PM
低額コンテンツをどう守るか迷う方へ
6月25日(金)Kixプレセミナー2 「iPad、Kindle、EPUB…電子出版にまつわるフォーマット議論の先に何があるか」 #kix0625 登壇3番目の慶應義塾大学環境情報学部増井俊之教授は、iPadや読書端末は今のケータイの暇つぶしに代わりうるもので、低額コンテンツの可能性を話した。ストレージ容量増加により紙のコンテンツでは不可能だった100冊分でナンボという売り方も可能になる。しかしそういったコンテンツを永く楽しむにはDRMやiTunesのような縛りがない必要があるとか、人との貸し借り、親から子への譲渡などもできたらいいと話した。DRMやiTunesの縛りとは課金や監視という意味ではなく、特定の会社や技術に依存することで商品寿命が限られてしまい、これがITの弱点であり課題である。そのために人々は代替手段のあるサービスを利用するようになるはずだ。
商行為に対する不正を防ぐのには必ずしもDRMである必要は無く、電子透かしを利用して購入者を特定できる例を説明された。マンガのような手描きのグラフィクスは購入者IDを画像の微細な部分の変化で埋め込む余地がいっぱいあるからだ。それだけではファイルのコピーは自由で貸し借りもできるが、もし販売をしたなら購入者と利用者の違いをトレースできることになる。セミナーの主旨とは外れるが、コピー防止のすべてを技術的に解決する必要は無く、契約事項を守るモラルの問題と、それに反することは法的な手が打てることになれば、不正の抑止力になる。
以前SteveJobsは「DRMは誰も望んでいない」と音楽会社に言ったことがあったが、コピープロテクトも同様に誰も望んでいないもので、一般にコンテンツ提供側は不正防止技術を開発した会社にライセンスフィーを払ってプロテクトをかけるわけだが、それほど儲からないビジネスではプロテクト代と被害額のどちらが大きいかということになる。ソフトにプロテクトがあるとかバックアップ・セカンドマシンへのインストールなどソフト利用上の不都合が利用者に知られると販売に影響することもある。このような経験からプロテクトをやめたところも多い。直接的にはプロテクト代のコスト削減になるし、プロテクトを正当化するための不正防止キャンペーンや利用者をなだめるためのプロモーション費用の削減にもなる。結局は不正防止技術開発会社以外はメリットがなかったという総括もある。
一方守る側はコピー被害額を掲げるが、よくあるのが不正利用者がもし支払っていたとすると、何億円の損に相当する、というものだが、そもそも無料のコピーでなければ有料で買って使うだろうという仮説は成り立たない。無料で使った人が使い続けるかどうかというと、大半はすぐに使わなくなるということは統計的に明らかである。また無料で使ってみてから有料に転ずる利用者もいる。そのように考えると被害額の実態は公称の1割程度でしかないのではないか。この損害をポジティブに転じた考え方が、お試し版とか機能限定版、バンドルソフトなどのフリーミアムであるといえる。
プロテクトはコストはかかっても見合った売上増加は無いと判断した分野があるように、コピーの抑止力というのは完璧なものを目指すよりも、ビジネスの実害をよく調べて、トレードオフで考えるべきものなのだろう。だから低額コンテンツでは電子透かしを解析・改ざんするような手間なことは割が合わないと考えられる。