投稿日: Apr 18, 2011 12:18:46 AM
自前のコンテンツを活用したい方へ
電子書籍の話題は少し行き詰まってきたようにみえる。第一はAppleの対応で、内容の審査や運用上の規制、費用配分、また購入者情報の共有など、利用者にはあまり関係なくてもコンテンツ提供者にとっては非常に重要な問題が暗礁に乗り上げているようにみえることが大きい。また紙の本をデジタルにするだけなら消費者自身がしているくらいなので、ビジネスとしての取り組みには何をしなければならないのか、というのもあまり考えられていない。それと根本的には記事『もっと活性化するカルチャー事業』に書いたように、出版という事業の自立は難しくなって、もっと上位のカルチャー事業の中のさまざまなコンテンツのOneOfThemになろうとしていると思う。むしろコンテンツの資産価値を見直してビジネスの仕切りを考え直す次期にきている。
つまり出版物単体で原価や部数を管理していればビジネスができるわけではなくなり、情報活用のトータルメリットを考えてコンテンツを多目的に使う中で、トータルに収支をみるようなビジネスになろうとしている。電話が1通話いくらという時代から、何々プランという売り方になったような変化がコンテンツの世界にも及ぼうとしていると考えると分かりやすい。しかし紙の本を電子書籍にするくらいでは、ヒットしても売上げが150%になるのが関の山で、コンテンツを電子化して管理する投資にどれだけ見合うかわからない。ではコンテンツをデジタル化して管理する意味はどこにあるのだろうか? 典型的なメリットは5つくらいあると思う。
・マルチユース・多目的
・重複作業の削減
・タイミング・機動力
・ネットを販路に
・IT(基幹システムなど)連動
これらでそれぞれ30%ビジネスがブーストすると、トータルで300%になる。特にネットの販路は電子書籍だけでなく非常に大きくなる可能性があり、電子書籍で150%行かなくてもそれをカバーするものとなるだろう。これらの事例は今後書いていくが、ここでは前述の5ポイントを概観するにとどめる。
●マルチユース・多目的
本の値ごろ感は情報量がそれなりにないと出せないが、ネットでは短編を少額コンテンツにするように、バラして売れる機会が増えるし、また引用されて教材になるようなところもちゃんとライセンスして有料ビジネスにできる。他の出版物へのOEM提供も積極的にビジネス化できる。
●重複作業の削減
デジタル化の初期から雑誌連載を単行本にするとか、月間の統計を年鑑にするとか、派生的な出版物にかかる手間ヒマ・コストの削減になるとか、逆に派生出版物をたくさん企画できるようになってきた。そのための情報管理方法もパソコンで十分可能になったので、自分で活用できるかどうかが問われる。
●タイミング・機動力
出版物のアタリ・ハズレはクチコミやニュースと連動して予測不可能な点が多いからそういわれたわけだが、デジタルコンテンツを手元で管理していればタイミングよく出版が可能になる。原子力発電所事故の直後に放射能の本がPDFで出たようなことがどこでもできるようになった。
●ネットを販路に
オックスフォードが紙の辞書をやめてネット上のものだけにすると発表したように、利用者はネットの方が多い時代であり、しかもネット上の方が派生商品やライセンスの機会が増えるので、これからのコンテンツ利用の中心にネット利用者を置いて考えるべき時に来ている。
●IT(基幹システムなど)連動
コンテンツは原稿として入ってくるのではなく、すでにITで管理されているところから引いてくるとか連動させることが増えてきたので、コンテンツをアウトソーシング先に預けるのではなく、自分でITと連携するコンテンツの管理方法を導入しないと、そもそも出版のスタートラインにつけなくなった。
コンテンツホルダが上記のすべてを自分ですることにならず、アウトソーシングは行われるだろうが、少なくともこの5つのポイントを踏まえた上で今後のコンテンツ活用を考えることは必須であると思う。