投稿日: Aug 02, 2010 11:33:59 PM
そういえば最近クロスメディアと言わなくなったと思う方へ
アメリカの会社がインドにコールセンターを移したように、情報通信の発達は電話の世界も変えてしまって、話している相手が実際何処に居るのか分からなくしてしまった。コールセンターによって企業はユーザーサポートを自社でまかなう限界がなくなり、また通信販売が発達するということが起こった。TVショッピングは放送という一方通行の販促ではあるが、電話で申し込みを受け付けることで、双方向の売買の機能をもたせることができた。日本では通信販売が市民権を得るのに永い時間がかかったが、郵便やFAXでの受付が簡便でも、電話で直接的に人に問い合わせられることの安心感は大きかったようだ。今はWebでの通販が発達したが、これもコミュニケーション手段の安心感の上に成り立っている。まだコールセンターをなくすわけには行かないが、ネット通販の課題はコールセンターの役割をどれだけシステム化できるかにある。
要するに一方通行のマス広告に比べて、一人一人の顧客にコンタクトを取ることの重要さが認識され、そちらに支出が振り分けられるという流れがある。いいかえると目立つ広告だけ作っておしまい、ということを事業会社である広告主は望んでいない。特に市場が狭まっていく国内では、顧客とのコミュニケーションを築いてライフタイムバリューを最大に持っていこうという販売戦略になってきている。つまりマス広告であれコールセンターであれソーシャルメディアであれ、バリューチェーン全体の中で、適材適所に使い分けるとか組み合わせることが課題なのである。日常的には今売り上げを上げなければならない単品の販促が課題ではあるが、その積み重ねで顧客のライフタイムバリューを向上させる戦略が重要である。強いて言えばこれが今時のクロスメディアになる。
ネットでのソーシャルメディアやサービスアプリで期待されているのは、コールセンターのカリスマオペレータのようなことを、如何にアルゴリズム化してECに組み込むかとか、そこでも足りないものをうまくコールセンターにリアルタイムでつなげて拾ってもらうことである。コールセンターの受注受付の際にクロスセル・アップセルをする能力は、会話の端々から注文主の特徴を捉えて、不必要な案内はせずに、可能性の高そうなことを簡潔に勧めるスキルで、ソーシャルメディアではセンチメント分析などで攻めていくテーマになりそうだ。しかしこういった新しい方法論だけ振りかざしてもビジネスは成功しない。
日本では広告というのは大正モダニズムあたりからの大衆の意識変化を主導した要素であり、それは江戸時代の士農工商における商人に対する不信を考え直させるものとなった。何時の時代にも人の欲望につけ込んで判断を狂わせて不要なものを売りつけるような人も居るが、三越や白木屋とか西欧文化を日本に持ち込んで生活改善や文化振興を目指す人たちを広告はうまく応援することができた。今の広告はひとつの岐路にあると思う。広告代理店でいえば、クライアント企業の広告業務のアウトソーシングという意味と、メディアの広告営業の代理店である。後者はマス広告はメディアのおいしいところの希少性で高額の取引を作り出し、広告を産業として大きくしたが、それはクライアントの事業会社には関係のない話だ。
新しいメディアがいろいろ出てきても、もうマスのような希少性はないので、前者のアウトソーシングに事業会社は関心がいくだろうが、広告ビジネスをしている方がコールセンターのようなアウトソーシングの気持ちがあるのかどうかわからない。つまり大正モダニズムのように事業会社と同じミッションを掲げたり、日常業務レベルでのサポートを細々と行って成果報酬でもいいような、今までと異なる世界に入る決意なのか。Buzzワードを打出の小槌にして方法論だけ振りかざしてもうコールセンターなど販促に流れた予算は戻ってこないだろう。