投稿日: May 26, 2010 2:52:54 PM
最初にパイの奪い合いを考えてしまう方へ
『電子出版の状況整理と無料経済の関係』セミナー#kix0521(要約PDFはhttp://bit.ly/b4rrPn)の3番手は評論家の歌田明弘氏で、広告モデルと有料課金の関係や不可解さの話から始まり、これからの小額課金の可能性を説いた。不可解さの典型としてはAmazonのKindleが一律$9.99なのでベストセラー本を原価割れで提供していて、このまま持続できないだろうという話があった。Appleは手数料は30%と高いが価格設定は出版社の自由度があるため、出版社はAmazonよりもAppleになびいているという。こういう状況なのでKindleがどうやって日本対応するのかわからない。
しかし現状と将来は異なるだろう。銀行のATMが始まった時点では手数料は無料で、使用が定着してから徐々に手数料を上げてきた経緯がある。Amazonの低価格戦略はそれに似たものを感じる。Amazonとても別に電子書籍を安売りするよりも、紙の本を売った方が売り上げが上がるように、無理々々電子書籍に「移行」させなければならない理由はない。だから想像するに話題作りのためにベストセラーは赤字覚悟でラインアップに揃えるが、新たな$9.99の電子廉価本のジャンルを創ろうとしているのかもしれない。つまり小額本の単品ビジネスはshipping&handling費用を考えると割に合いにくいはずだが、逆に電子にすることで利益性が改善するからだ。また自由に価格設定できるものも、Amazonの企画ものもこれから出てくる可能性はある。
要するに戦略戦術は別にあると思えるので、今の姿から今後は占えないだろう。その狙いは、今まで読書が行いにくい場所や時間帯で読書に時間を割けるようにすることだろう。電子書籍は紙の本とカンニバリズムするよりも、新たな読書機会をもたらすことは、歌田氏の話の中ではasahi.comのWEB新書でも同じだ。これは3千~5千字程度の「政治・国際」「経済・雇用」「社会・メディア」に関する記事で、今105円で売られている。コンテンツは既存メディアにでたものの流用と思われる。R25的なノリのもので、ニュースの記事のところで露出してWeb新書の購入に引き寄せるモデルである。原典は朝日に限らず、朝日はプラットフォームの面倒を見ている。
安いこともあるが「新書」というネーミングがよいというパネラーが多かった。かえって字数が少ないので、既存の本とはバッティングしない。またコンパクトなのでタイトルに即して内容がフォーカスされている。カンニバリズムを心配するのにアタマを使うよりは、まだいくらでもある隙間を突いたほうが早く電子書籍が立ち上がりそうだと思えた。