投稿日: May 11, 2011 12:55:32 AM
デジタルはどれだけ賢くなれるかと疑っている方へ
ネットのショッピングの特徴のひとつに、オススメが自動的にでてくることがある。最初は商品の属性として関連商品のリンクを作っておいて、こんなオプションがあります、とかアップセルを促す単純な処理が行われたが、利用者もすぐに学習してしまうので「またか」と思われてスルーされてしまう。Amazonのリコメンデーションのようなものは、その人の購買履歴とか商品の相関を統計的に処理して、何らかの発見をしてもらうような方法で、統計がうまくいっていないと、発見どころかトンチンカンなものとなって失笑を買うから、情報提供する側の難易度は高くなる。
Amazonも2000年代半ばまではあまりリコメンデーションは感心しない場面もあったように思う。しかし最近は不満も聞かないからこなれたものになってきたのだろう。私はeBayを10年くらい使っているが、実にマメにプログラムの改良を続けていて、何かボタンを押して先に進み、また戻るというような単純な動作にも、毎週のように改善があり感心する。こういった小技ばかりをしているのかと思ったら、5月10日には My eBay のフィーチャーが突然変わった。今まで自分の購買履歴が過去60日程度しか表示されず、それ以前は追跡できなかったのだが、なぜか5月10日は過去3年分の購買が全部見られて、しかもそれらの全アイテムに似たものを探すとかいろんなアクションが可能になっていた。
Amazonのリコメンデーションと同様にeBayでももうひとつ頼りない機能として、オークションで買い逃したときに、似た「こんなものもありますよ」という表示があったが、それは商品名が似ているとか、同じ販売者の同類商品とか、価格帯が似た他者の類似物など、如何にもデータベースを手繰って出してきたなと思えるような味気ないものだった。しかし今年に入ってからは「似たもの」がそれらしいものになったのである。今までは商品を探すのにサイトの検索を使うことがメインであったのが、検索の中から絞り込むよりも、「似たもの」や「オススメ」として表示されるものの中から選ぶほうが的確になったのである。つまりeBayのようにプログラムつくり集団でも10年かかってやっと自然なオススメができるようになった。これはチェスのチャンピオンがコンピュータになったのと同じような印象である。
しかしそれはプログラマの発明とか工夫のレベルではなく、売買データの途方もない統計に基づいているらしいことを、過去3年ヒストリーの表示からいろんなアクションに移行できるようになったことから感じた。eBayは自分で巨大なデータセンターを運営していて、そこで売り買いのトランザクションをするだけでなく、今クラウドでいろんな統計処理やシミュレーションをすることもずっと積み重ねてきたのだろう。このような10年間の購買の解析というところから次のビジネスを考える段階にきていると思えるが、これは日本のECよりも1周先を行っていることになる。
クラウドは金を出せば誰でも使える時代であるが、データ処理で得られた解析の積み重ねや、そこからの仮説の検証の積み重ねが企業が新ビジネスをする上での資産となる。その点で、日本のeBusinessはAmazonやeBayとは圧倒的な差をつけられてしまった。ネットのビジネスはいつも新しいモデルを引っさげて登場する会社に目が行きがちだが、実際の企業としての成長は地道なeBusinessの王道を行っているところが成し遂げているのだと思う。