投稿日: Jun 14, 2013 1:6:53 AM
イノベーションとは何かと思う方へ
シニアオーディオの世界はドン詰まりであることを記事『ステレオ装置と音楽』で書いたが、オーディオの技術そのものは別の方向に進展していて、ビジネスは伸びるはずである。安物のアンプもヘッドフォーンも随分とよくなったと思う。そういった技術的な品質向上に合わせるかのように録音も複雑になっている。前述記事にも書いたがライブなどナマ音の世界とCDなどの録音の世界は、演劇と映画のように別の世界に分かれて行くかのようだ。そして楽器のデジタル化も徐々にではあるが進んで、音作りの環境が変わっていく。近年すごいな、と思ったのがエレキギターのアンプシミュレータで、それまでアンプやイフェクターをいろいろ揃えたところでないとギターの音がつかみにくかったのが、大体のことは自分の部屋で出来るようになった。レコード再生だけがオーディオ技術と考えるのは偏狭で、ビジネス機会を狭めてしまう。
私は実はいわゆるステレオなどのオーディオ装置を買ったことがなく、レコードは50年来蒐集して聴いているが、基本は手作りの再生環境であった。通常はそれで満足していたのだが、BOSEのラジカセACOUSTIC WAVE AW-1が出たときに負けたと思った。それはそれまでの左右対称のステレオの概念を覆すものだったからだ。このような方式をとったのはラジカセというコンパクトオーディオだからなのだろうが、リビングルームで音楽を聴くにはこれで十分だと感じた。ラジカセとはいえ外部入力端子を活用すればステレオの代わりになるので、今でも使っている。
AW-1が売られたのは1984 – 1992年であったそうで、20年前だが未だに中古で1-2万円で取引されている。そんなラジカセが他の日本製品の中にあるだろうか?しかもアクセサリは今でも供給されていて、日本の家電メーカーは下駄脱いで逃げ出さなければならないほど家電の鑑となる製品である。
しかしこのBOSE WAVE 系列の音響製品は日本のオーディオファンは好まないらしい。その主たる要因は左右対称でないことからくるであろう。これは日本人のアタマの固さからくるのではないか?きっと人間の耳は左右同じようにあるので、音も左右同じように出てこなければならないという理屈だろうと想像する。
それはヘッドフォーンで聞く場合はそうであっても、実際にライブでもホールでも耳に届く音が左右対称はありえないはずだ。このように現実を直視しないで、ステレオの観念だけで実験的に改良を重ねていてはイノベーションは生まれないだろう。それよりも音域の広さの方が重要である。
WAVE AW-1 は3スピーカーからなり、左右に見えるのは中音と中高音のスピーカーで、さらに下にウーハーがある。中音と中高音に左右の信号を振り分けているわけだが、中音の方には高域を強調し、中高音の方は中域を強調するように、アンプが異なる特性になっていて、それらが室内の空間で交じり合うと、音域と左右感の両方が出るという仕掛けである。
こうすることでラジカセのコンパクトさでかなり高級なステレオ装置のようになる。だからそもそも高級ステレオを設置しているところではわざわざ買う必要がないのだろうが、リビングやオフィスでも(あるいはお店とか待合室)ステレオが買ってもらえるようになるのである。つまり高級オーディオのドン詰まりと対照的な製品開発である。
実際にはBOSEは高すぎてそれほど売れないと思うが、この考え方の台湾製品などが安くて音のいい製品として売られていたと思う。
やはり日本の家電の凋落はアタマの固さが一因であると思う。