投稿日: Aug 30, 2012 1:25:30 AM
処理の役割分担に悩む方へ
パソコンの登場以来ずっと信仰のようになっていたのが、「CPUの性能は18ヶ月で2倍」という進歩をするので、どんどん新しい機種やソフトを出し続けられるから、ITビジネスは万々歳という考え方であった。この「18ヶ月で2倍」とはインテルの創業者であるゴードン・ムーアが1965年に書いたという『半導体の集積度は、およそ18カ月で2倍になる』である。1965年というとマイクロプロセッサはまだ出現していないので「CPUの性能は…」とはいえないはずだが、一般にこれがムーアの法則と呼ばれる。しかしその延長上にITのビジネスがあったのはCPUがメガヘルツ競争~ギガヘルツ競争をしていた時代のことで、その先に人々がスパコンのようなPCを求めるようになったわけではなかった。
数年前にウルトラモバイルと称するノートPCとiPhoneなどが登場したのは偶然ではなく、CPUの進歩に依存したようなデバイス設計が終わったことを意味する。WindowsではAtomというintelのスリム化したCPUが登場し、クロック周波数を上げる代わりに回路をシンプルにして省電力を図った。昔からある外部インタフェースは見直されUSBとイーサネット・無線LAN、bluetoothなどに集約された。一方でゲーム機や携帯電話に使われていたARMは通信機器やコンピュータ的な用途に利用を拡大し、スマホ・タブレットの中心的なCPUになった。残念ながらWindowsには使えなかったので、マイクロソフトはスマホ・タブレットの蚊帳の外になってしまった。Windows8からARM対応のOSができるので、CPU競争は本格的に脱Pentiumの時代を迎える。
今のタブレットのARM系CPUはAppleであろうとも、QualcomのsnapdragonでもNVIDIAのTegraでも1.2-1.5GHzどまりで、ただしコアはdual/quadになる。Atomもほぼ同じようなところに来たのだが、ARM系はHDのデコーダをハードウェアで備えるようになっている。つまりCPUのクロック周波数を上げるよりも、コア数を増やしたり、専用エンジンと分業することで性能を上げる設計になったわけで、ムーアさんが最初に言ったように集積度は今後も上がっていくのだろうが、CPU単体性能はもうここ数年間は向上していない時代になっている。
では、クロック以外の方法でタブレットのCPUの性能は今後も上がっていくのだろうか? いやモバイル機器に関しては、記事『1周遅れのネット関連開発』で書いたCAVIUM NETWORKSのARM11ベースのSoCが1ワット以下になっているように、電力面からCPUの役割を限定して、ほぼ表示とUIに特化している。だからコンピュータ処理の多くをクラウドやサーバに依存するようになるのだが、具体的にどのような役割分担になるのかについては、記事『タブレットのソリューションは複雑』に書いたように非常に悩ましい状態になりつつある。クラウドやサーバやローカルなキャッシュとタブレットCPUにどのように負荷を分散すればよいのかという、ムーアの法則に代わる新たな「演算」の経済学が必要になるのだろう。