投稿日: Sep 30, 2011 11:23:57 PM
日常の情報接触にeBookは向くと思う方へ
日本の出版技術には根本的なネジレがあって、小学校の教科書は国語以外は横書きであるほど、ビジネス文書は横書きに統一されているのに、書店で流通する文字物の読み物の大半は縦である。新聞を縦にするか横にするかという検討はずっとあって、朝日新聞でも横組みのものを挿入することが時々ある。中国系の新聞には縦横混在のものも多くみられる。人民日報は最初は縦書きであったが、文革のころだったか横書きになったと思う。中国本土は公文書も横書きであり、DTPはすんなりと受け入れられた。DTPから電子書籍まで出版システムを開発するにあたって、この縦横問題はいつも悩みの種であって、海外のシステムが日本に入りにくい障壁にもなっている。電子書籍ではやっとePub3.0で縦組み仕様ができたが、ePubのビュアがそれらに対応するにはまだ時間がかかりそうだ。
商業出版でも東大出版会などは人文系も横書きで出版しているが、これは少数派であるので読書用に縦組みできるビュアとか端末が求められた。しかし本当にそれらでないと表現できないコンテンツは少ししかない。例えば俳句や短歌はそうしたいかもしれない。小説もケータイ小説がヒットしたように、電子メール感覚で読むというのもアリなので、今後は横組を意識した表現もできるだろう。むしろ今まで縦用に編集済みのコンテンツを流用するために縦組みビュアが求められているのだと思う。作家も縦組みしか念頭になかったはずである。これを改めて横書きに再交渉するのは難儀だろう。
しかし商業印刷も実用文書も横書き主体であって、すでに横書き用に編集済みのものを、わざわざ縦用に編集しなおしてePubにするのも無駄な話で、横書きのePubで出版・配布すればよいことである。しかしこの場合のePubにするための課題は縦横問題ではなく、それよりも文字情報以外に表や組み方の多様な表現の再現である。特に印刷物のような一定の面積の中に情報を詰め込んで見渡しやすくするのに、表組みが多用される。表組みは欧文でもタビュレーション・ワークという分野であるが、日本のそれは罫線区切りを主体に、そこにバランスよく文字を置くという、また別の技術である。これをeBook用に分解して平易なものに置き換えるのも大変な作業になる。
現在では表の原稿はWordやExcelで作ることが多くなっているので、そのレベルでもいいからePubに表現できると、実用文書のeBook化は一挙にやりやすくなるし、eBookを想定したレポートやドキュメント作りというのも最初の段階から行えるようになる。9月29日からダウンロードができるようになった、オープンエンドの Smart ePub は、無料版の場合はWordでオーサリングしたままをePub(今のバージョンは横書き)に変換するだけであるが、サンプルページのように表も、かなりの文字属性もWordのレイアウトでePubに再現される。これから販売されるプロ版では表の調整や再編集もWYSIWYGになり、iPhoneとiPad、Andoroidなどのデバイスサイズに合わせて表の調整をすることが可能になる。そのほかWebの一部やすでにあるePubから一部をインポートして組み合わせられる。
現在のところePubビューアの側の再現性の不統一があるので、何が可能で何が難しいか言いがたいが、指標としてiPadを考えると、Wordで体裁よく作ってあればiPadでも体裁よく見られるようになっている。今までマニュアルやビジネス文書をWordで整備していたところが、一挙にスマホ・タブレット対応できる時代になったといえる。また従来は出版しようかどうか迷っていた学会誌や報告書なども、自主出版がしやすくなる。商業出版と違って、これ自体でどれだけのビジネスができるかという問題ではなく、スマホ・タブレット時代の情報循環にビジネス文書がリンクできるようになることが重要である。
関連セミナー 打つ手はある!情報処理型パブリッシングで今ここまで出来る! 2011年10月5日(水)